4月11日 早朝。
対レイソル戦を数時間後に控え ドームに集結したスタッフ達の胸は高鳴っていた
「今日は絶対負けられない!」 「監督のためにもキャプテンのためにも勝つぞ!」
そう口々に言いながら 忙しなく試合の準備をしていた。 そばにいたドーレくんも
勿論 同じ気持ちだった。だが思うように体が動かない・・・なぜか頭がクラクラする
と その時だった
ガタッ
大きな音を立て ドーレくんが 倒れた
ドーレくん! ドーレくん!
スタッフの声が聞こえる だが その声がだんだん 小さくなる・・・
ドーレくん ドーレく・・・ ド・・・ く ・・・
ドーレくんは 意識を 失った
【 ドーレくん 危うし! 】
ハッ。 気づいたのは2時間後。横には心配そうな顔のスタッフがいた。
「 あ 気がついた? ドーレくん!」 そう言ってくれた
ドーレくん 「 ・・・ やっぱりボク 倒れちゃったんだね ごめんね 心配かけて・・・」
スタッフ 「ううん 大丈夫ならいいんだ でも ビックリしたよ 急に倒れて」
ドーレくん 「・・・うん ただの貧血だと思うんだ でももう大丈夫だから」
そう言い 立ち上がろうとするドーレくん だが まだ足下がフラついている
スタッフ 「まだ起き上がっちゃダメだよ 今日は無理しなくていいから」
ドーレくん 「いや みんなが待っててくれるから ボク 行くよ!」
スタッフ 「ダメだよまだ寝てなくちゃ!今日はレイくんに頑張ってもらうから ね」
すると一瞬 ドーレくんの表情が曇る。 そしてこう言った
ドーレくん 「 ・・・ レイくん ・・・も たぶん ダメだと思うよ・・・」
スタッフ 「ん? ドーレくん それ どういうこと?」
レイくんとは 柏レイソルのマスコットキャラクター 太陽王のレイくんである。
実はこの札幌vs柏戦を盛り上げるため レイくんは遠く千葉から駆けつけていてた
そんなレイくんが ドーレくんと同じように倒れてしまう とはどういう事なのか?
スタッフは ドーレくんの言った 意味深な言葉が気になった
「ドーレくん なにか事情があるようだね 話してごらん」
スタッフがそう言うと ドーレくんは小さな深呼吸をし その理由を話し出した。
「レイくんが札幌に来るってメールをくれた時 とっても嬉しかったんだ
久しぶりだし いろんな所へ案内して 一緒に遊んで って考えたら ワクワクしたよ
でもね ちょっと気になる事があって・・・
レイくん 木曜から 来たんだよね
試合は日曜なのに なんか ちょっと 早すぎるなぁ と思って・・・
それで すごく考えたんだよね なんで早くに来たのかな って・・・」
スタッフ 「それは早くドーレくんに会いたかったからじゃない?」
ドーレくん 「うん ボクも最初 そう思ったんだ だから すごく嬉しくて
でもね でもだよ それでも 木曜からって 早くない? 早すぎるよ 変だよ!」
【太陽王の陰謀】
確かに いくら大事な一戦だからと言え 日曜の試合に木曜から来るのは早すぎる
だいたいにして レイくんが来る事自体 大きな出来事だ。なんせ太陽王である。
飛行機はファーストクラスしか座らない だが国内線だからファーストクラスはない
ないから 一旦 海外へ飛び そこから千歳行きに乗るのだ。なんせ 太陽王だ。
また木曜からとなると3泊4日。長期滞在だ。でもパコじゃダメだ なんせ太陽王だ
それじゃどこに泊まるかと言うと プリンスホテルだ。なんせ プリンスだ。
しかも部屋は スイートに限る。なんつったって 太陽王はスイートなのだ!
ファーストクラスに プリンスのスイート3泊4日。もはや天文学的数字である。
ドーレくんなら自力で移動 茂った木で宿泊 食事はジンギスカンでOK!なのに。
このご時世に ここまでの金額を掛けて 来る理由とは いったい何なのだろうか?
ドーレくんの言葉で スタッフも疑問が起こってきた。なぜ木曜から来たのか?と。
そして 確かめるように スタッフはドーレくんに 聞いた
スタッフ 「それで ドーレくん・・・ もしかして 何か気づいたのかい?」
ドーレくん 「・・・うん 」
スタッフ 「聞かせてよ ドーレくんが気づいたこと」
「千歳に迎えに行って すぐに宮の沢へ行ったんだ そしたら レイくん
一瞬 怖い目をしたんだよね なんだか いつものレイくんじゃないみたいな
一瞬だよ ほんの一瞬だけだよ だから何か変だなって思ったんだけど
すぐに いつものレイくんに戻ったから 気のせいだなって思ったんだよね
で その後は 大倉山に行ったり ウィンタースポーツミュージアム行ったりして
すごく楽しかったよ レイくんだって まだまだ色んなとこ行きたいって
楽しそうに言ってくれてたし ・・・でも ね 何だかボク 凄く疲れちゃったんだ・・・」
「だって ボク しまふくろう だから・・・」
そのひと言で スタッフは分った。
ドーレくんが倒れた理由も レイくんの陰謀も。
不自然な木曜からの札幌入り ドーレくんの衰弱 その裏にある陰謀
それらの答えを スタッフは導き出した。 そしてドーレくんの顔を見た。
ドーレくんは コクリと うなづいた。
しまふくろう と 太陽
夜行性の動物 と 太陽王。 水と油 いや 弱者と強者である。
ドーレくんは レイくんと一緒にいれば いるほど弱っていく それが定めなのだ。
もはや 戦う前から負けは決定している。
おそらく それが レイくんの計画。
普通なら前日 いや当日でもいいはずの札幌入りを あえて早めたのは
ドーレくんを衰弱させるため。ハイパフォーマンスをさせないため である。
ドーレくんが元気を失えば コンサドーレも弱る。それは すなわち 柏の有利!
そう 全ては 「柏が勝利するための計画」 である。
レイくんの不自然な行動も これで謎が解けた。
だが1つ疑問がある。ドーレくんは そこまで気づきながら なぜ 付き合ったのか?
レイくんの陰謀を知ったなら その場で帰ればよかったはずだ そうすれば
倒れる事はなかった。だが ドーレくんは レイくんの要求に応え 行動を共にした
それが不思議でならなかった。気づいているのに なぜ? 「なんで ・・・」
そう言いかけたスタッフの言葉を遮(さえぎ)るように ドーレくんは顔を上げた。
その目は 暗闇の中で光る まさに野生の目だった
ドーレくん 「オレもさ 10年以上 この世界で メシ 食ってんだ」
【ワルドーレの逆襲】
その声 その目 その言葉。 いつものドーレくんじゃない。
こ これは ワルドーレくんだ!
噂に聞いた事がある あの怖そうな目が ごくまれに ガチで怖くなる時があると。
それがワルドーレなのだ。ドーレくんの中に巣くう もう一つのドーレくん
それが ワルドーレ。
スタッフは慌てた 噂に聞いていたワルドーレを 今 目の前にしている
頭はパニくり 体は固まった。ただ 頭の中だけは冷静だった。瞬時に周りを確認し
こんなワルドーレくんの姿を チビっ子たちには絶対 見せてはいけない
「この世界でメシ食ってんだ」 的なワルドーレ語を聞かれてはならない と思った。
とにかく落ち着こうと ポケットからタバコを取り出した。“カチッ カチッ” 焦って
タバコに火が点かない 何度も 何度も ライターを擦った
ドーレくんがライターを奪う タバコを1本咥えると “シュポ” 火は簡単に点いた
フゥーーー・・・ ドーレくんの吐いた煙は 大きな輪となって 天井に昇った
ドーレくん 「ここさ 禁煙だよな・・・ まぁ いいか」
そう言うと ニヤリと笑い ドーレくんは いや ワルドーレくんは また 話し出した
「オレもさ 最初は まさか と思ったさ あのレイが そんな陰謀 持つはずないって
だけどよ あいつもプロだ。ガキの使いで来てんじゃないんだよ 裏がある事ぐらい
こっちだって考えるさ。でな ヤツがオレを弱らせるために早く来たってんなら
こっちも打つ手はある。いいかよく考えてみろ あいつは太陽王だ お日様なんだよ
オレが太陽に弱いように あいつにだって弱点はあるんだ なんだと思う?」
スタッフは まだ慌てていた。 落ち着こうとするも 動揺し 答えられずにいた
闇 だよ 闇
ワルドーレはそう言うと またフーと煙を吐いた。煙が象のような形になる。
凄い技だ。ワルドーレは少し自慢気にスタッフを見た。一瞬 目が合いゾっとした。
「いいか あいつは太陽だ なら 闇は苦手だよな。でな オレは しまふくろう だ
闇ならこっちのホームだ。だからな オレは 夜に勝負したんだよ」
スタッフは分らなかった ワルドーレが何を計画し レイくんに何を仕掛けたかが。
「サッポロの夜をね ちょっとばかり 堪能させて やったのさ フフ」
スタッフは 瞬時に 「 ス ス キ ノ 」 という言葉が浮かんだ。
なるほど。昼間は あえてレイくんの計画にはまり 夜に さり気なく リベンジか。
あの魅惑の街に放り込めば レイくんは帰れない。そしてドーレくんは夜に強い
朝までだってヘッチャラだ。 もう一軒 もう一軒と レイくんを連れ回すのだ
そうすれば知らない内にレイくんは衰弱する。これで勝負は五分五分だ。
それがワルドーレの逆襲だったのだ。 なんという機転。なんというワル知恵。
「しまふくろうvs太陽王」 この圧倒的不利な戦いを 逆転させたワルドーレ
陰謀を陰謀で返す技 Re陰謀 略して 「リンボー!」 である。
ワルドーレは ニヤリと不適な笑みを浮かべ もう一度 タバコを吸い込む
今度は煙がキリンの形になった。凄い 凄すぎる ワルドーレの技は超一流だ。
だが 決して 子供たちの前では 披露できない技だ。
ワルドーレは最後の一服を終えると ズボンから携帯灰皿を出し キュっと消した
そして 立ち上がり 大きな両方の羽で 顔をパンパンと叩いた。
「じゃ ボク みんなの所へ 行ってくるよ!」
そう言ったワルドーレは いつものドーレくんに変わっていた。
みんなが大好きな 元気で 楽しい ドーレくんに。
【そして 戦いの場所へ】
その後姿には まだ疲労の色が残っていたが 気持ちで乗り越えている様だった。
だが 疲れとは裏腹に 漲(みなぎ)る何かが見えた。例えるなら 「愛」 と言う様な。
考えてみれば ドーレくんは その身を犠牲にして レイくんを弱らせたのだ
それもこれも みな 「コンサドーレを愛するがゆえ」 の行動である。
チームを勝たせるために 時には汚れた仕事もしなければならない
だからワルドーレくんが必要なのだ。
それは レイくんもまた 同じだ。チームを勝たせるため 計画を練り 遂行した。
ただそれだけだ。両者は ただ プロの仕事をしただけ なのだ。
4日間 太陽王と一緒にいたドーレくんは ボロボロに衰弱しているはずだ
それでも元気に 皆の前へ出て行く姿に 「プロとは何か」 を教えられた気がした。
そして 驚いた
「ドーレくんって しゃべれるんだ・・・」
「しまふくろう vs 太陽王」 の戦い。それは 試合の4日も前から始まっていた。
昼間は 真横で燦々と降り注ぐ太陽を浴び エネルギーを消耗するドーレくん
夜は 「接待」 と称し ススキノで消耗しまくるレイくん
圧倒的不利だったはずの戦いは ドーレくんの見事なリンボーで 互角になった。
後は 選手たちの頑張りだけだ。
どんな不利な状況も 知恵と勇気があれば 乗り越えられるのだ。忘れるな。
4月11日。その日 札幌ドームでは 2つの戦いが ある。
ひとつは サッカーチームの戦い。
もう一つは ドーレくんとレイくんの 意地とプライドを懸けた戦いである。
両者 ボロボロに消耗した体で 魂の戦いを見せるだろう。
それは見逃せない。その 魂の戦いを 決して 見逃しては ならない。
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