高原は守護神じゃない。 守護神を守る 「守護守」 である。
■ 札幌 0-0 鹿島
まさに 高原の高原による高原のための試合だった。
コンサドーレは前節 浦和に勝利し 久しぶりの勝点3を手にした。内容も充実し
ここに来てようやく戦える状態になった かに思えたが このタイミングで2週間の
中断は非常に痛かった。そして更にバッドタイミングだったのが 対戦相手である。
相手は 前回アウェイでの対戦で0-7の大敗を喫し 僅かに残っていた自信を
木端微塵にさせた鹿島。あの大敗が 今季の降格を決定づけたと言って過言では
ないほど 冷酷非情なチームである。だが鹿島の強さは まさにそこにある。
ブラジル流の 勝負に対し 徹底してシビアに戦えるよう鍛えられたそのスタイルは
コンサドーレが最も苦手とする相手だった。戦う前から絶体絶命のピンチである。
事実 試合開始から鹿島が主導権を握り 幾度となくコンサドーレゴールを襲う。
現在 小笠原から柴崎へ主軸が移りつつある鹿島は まだ試行錯誤の状態なのか
どことなく ぎこちなさがあったが こっちとしてみれば大ピンチの連続である。
鹿島の選手がゴールに向かう度 冷や汗が一回落としたペプシ缶の如く噴き出た
このままじゃいずれ失点してしまう 失点すれば守備がまた崩壊するかもしれない
そんな不安が やくみつるの頭髪の如く増幅した。そして 不安がピークに達した時
絶体絶命のピンチが襲った。河合のスライディングがPKの判定にされたのだ。
だが テレビのリプレイで何度 映しても 河合の手にボールは触れていなかった
おそらくミスジャッジだが判定は判定である。覆らないものと覚悟し 後は鹿島の
キッカーが奇跡的に外してくれるのを願った。蹴るのは興梠。助走の距離を取る。
蹴馬鹿的法則として 「怪しい判定のPKは入らない」 というものがある。
あくまでも妄想だが 微妙なジャッジで奪ったPKは どこかキッカーに精神作用が
あるのではないかと思うのだ。何というか 「気が引ける」 みたいなものが。
だが 鹿島にはブラジルの血が流れている。勝負に対する強固な意志は 先日の
日本代表対ブラジルの試合でも確認できただろう。遠慮など絶対ないのだ。
事実 興梠が蹴ったボールは スピード・コース共に申し分ないキックだった。
もはや 失点 その後の崩壊までも 想像してしまう瞬間である。
だが 高原がいた。
ボールは 左に飛ぶ高原の手に当たり 絶体絶命のピンチを救った。
なぜ止められたか分からない。それが反応なのか 読みなのかも分からない。
だが 高原が防いだものは 単なる1点ではなかったはずだ。
例えばこの試合 若い選手の出場が多く もし負けていたら その影響するものが
大きかっただろう。せっかく浦和戦で得た自信を また失う事になっただろうし
鹿島への苦手意識は更に増大したはずだ。結果それは J1への苦手意識になる
そうなれば残り6つしかないJ1の試合で 収穫どころか来年へ悪影響まであった
と思えるのだ。そうした あらゆる危機を 高原が防いだのである。
まさに 守護神 いや 守護守である。
高原という選手は 実に不思議な選手だ。簡単なボールに対しては決断力に欠け
なかなか前に出てこないという悪癖がある。またハイボールにはアマチュアかと
思うぐらい不安定な動きをする が かと思いきや PKや至近距離のシュートには
代表級の反応を見せる。実際この試合でも何度もスーパーセーブを見せていた。
また その忍耐力は確かなものである。骨折やアキレス腱断裂という大怪我を
乗り越え プロ後に練習生からのやり直しにも 耐えて復帰を果たした。かと思えば
漢字には天才級の能力を持つらしく 「守護守」 という新ジャンルまで作り出した。
要するに高原は 天才と凡才が混在する 実に掴みどころがない選手なのだ。
そんな高原が コンサドーレの窮地を救った事は確かである。
ホームで勝てなかった事 ノーゴールで終わった事は残念だが 今年の状態で
2試合続けて勝ち点を取れた事 それが鹿島からだった事を考えれば 大きな収穫
と言えるだろう。特に若い選手にとって自信を損失するか 確かな手応えを持つか
分岐点だったはず。その試合で勝点1を得た事は 見た目以上に大きいと思う。
そう考えると 高原が救ったものは コンサドーレの未来だったかもしれない。