一本気な男がいる。名をコヒカと言う。
男として一本気とは素晴らしいことだが この男の一本気 ちょっと違う。
脇道がない。とでも言うべきか。
だが 本人は「けっこう繊細っす」と言う。
本当にそうだろうか… まぁ そんな男の話しである。
コヒカは鼻にピアスが付いている。
コヒカは金髪にしていたが 「少し真面目になった」と モヒカンにした。
コヒカは声がデカい。 だがゴール裏には行かない。
コヒカは「金がない」と言う。 だが週刊マンガは必需品らしい。
コヒカは迫力がある。コヒカはデカい。コヒカは横にもデカい。
コヒカはサイトで
4コマ漫画を描いている。
コラムも書いている。
そんなコヒカは 父である。
小学4年を筆頭に3人の父 コヒカ
そんな彼の息子 長男と次男が 一昨年からサッカーを始めた
それも某名門クラブで。
コヒカにとってそれは無常の喜びだった。
この男と最初に会った時の事は 今でもはっきり覚えている。
03年の11月 コンサドーレの試合 ホーム最終戦だった
仲間たちが集まった試合 その日はゴール裏一角を陣取り 応援する事になった
試合前 カミさんと飲み物を買いに行って 席へと戻った
すると 私らの座っていた席のすぐ横に
金髪の狼がいた。
一瞬 「仲間がカラまれている!」 そう思った。
隣の友人からは 無言のSOSが発信されている そう感じたのだ
「助けに行かなくては」 急いで階段を駆け下りた
近づくにつれ その金髪の狼から発せられる迫力に たじろいだ
だが ここで仲間を見捨てるようなことは出来ない!
勇気を振り絞り 近寄った。 金狼が振り向く。
さ さあ 勝負だ!
「あ コヒカ です。 しのかいの兄です。はじめまして」
それが コヒカとの初対面だった。
金髪にサングラス。全身から滲み出る悪徳金融臭。
「返せる時に返したらいいがな」 そう言いそうな口から出たのは
爽やかな挨拶だった。
人は見かけによらない その言葉は この男のためにある。
それからは 試合で 飲み会でと たびたび会うようになり
今では 私を「兄!」と慕ってくれる
ただ この「兄!」も時と場所を考えなくては大変なことになる。
ススキノ方面では 出来るだけ離れて歩いている。
仲間内でのサッカー話しでは 多少 遅れをとった感のあるコヒカも
息子たちが始めたサッカーで 一躍 飛び道具を得た。
「長男の試合 今度 見に行くよ」 と言うと 嬉しそうにしていた
そうして 一昨年から去年と 数試合 応援に行った
どの試合も面白く まして応援する対象があるのだから
私らも力が入るわけだ。選手の父の友人 という関係性だけであっても。
で。行くたびに思うのだが。
このコヒカという男 先に書いたように 一本気な男だ。
今 この男のサッカーに対する情熱は 全て息子へと対象を変えて注がれている。
しかも その熱は日に日に高まっているように見える。
更に コヒカのカミさんは コヒカに輪を掛けて一本気にした熱さだ。
一本気の二重構造だ。これはちょっとやそっとじゃ揺るがない。
姉歯の建築物も これぐらいの強さを持っていれば。
この炎に焼かれるような熱さの中 息子は淡々とサッカーに臨んでいる。
息子は あくまでもマイペースなのだ。
それがまた 父母の琴線に触れる。キッーっとなる。
間もなく養成ギブスが作られるかもしれない。それほどの危機が迫っている。
それでも 息子はマイペースを崩さない。
やはり血筋だ。マイウェイなのだ。脇道がない。父と同じなのだ。
ちなみに父コヒカのマイウェイは タチが悪い。
飲み会があると 誰よりもはしゃぐ。機関銃のように喋る。
その喋りたるや 隙を与えない。タイミングを計って入っても跳ね返される。
しかも声が大きい 小型ミサイルの連射型だ。最強に近い。
アメリカがコヒカの存在を知ったら 即買いだろう。
だが この男 ひとしきり喋り終わると
寝る。
それがどこであろうと 所 構わず 寝る。
ワーっと喋って 誰かが話し出すと 寝てる。
タチが悪い。次 起きる時は もう帰る時間になっている。
「帰るから」と起こすと 「あーーーーー」と悔しがる。
なんで早く起こしてくれなかった とでも言いた気な顔だ。
やはりタチが悪い。「寝るなよ」と何度言い聞かせても 寝る。
マイウェイなのだ。己の道をつつがなく進む。
この父にして この子あり。
血は脈々と受け継がれている。
それでいい。
いずれ息子は
父の一本気を 誇りに思うだろう。
母の熱さを 感謝するだろう。
そうして 何かを成す人間になって行くと思う。
そんな予感をさせてくれる子だ。
マイウェイで 繊細で 一本気で 鼻ピアスな男 コヒカ。
この男の熱さは 周りを触発させる。
今 息子に注がれている熱も いずれは方向を変えねばならなくなる
その時 何を成すのだろうか?その熱で誰を触発するのだろうか?
それもまた 楽しみな未来だ。
そんな熱き 蹴馬鹿で親馬鹿なコヒカ一家。
昨年 どんどん一徹化する彼らを 心配したが
今は それで良いんだろうな と思うようになった。
この競争社会の中 諦めた時点で大流に流される
「やる気があるなら とことんやれ!」
そうハッパを掛けるのは愛情だろう。
息子たちも その期待を真っ直ぐ受け止めているようだ。
マイペースはマイペースでありますが。
ただ。友人として 傍目で見て どうしても気掛かりなことがあります。
他人の私が差し出がましいようですが
私からのお願いとして どうか聞いて下さい。
明子 求む。