昨年7月2日 対山形戦。
その日 厚別競技場のフェンスには 赤や黒の横断幕に混じり
1枚だけ違う色の幕が張られた
藤色の地に 黒の文字 白の縁取り
鮮やかな藤色の横断幕。 岡田佑樹の横断幕。
持ち主の方から 幾人もの人をつたい 海を越えてきた横断幕。
メインスタンドのずっと端の方 ひっそりとした場所での初披露となった
それでも試合前に手渡された藤色の幕には
何か言いようのない尊さと重みを感た。
この横断幕が作られたのは もう7年近くも前になると言う。
岡田が藤枝東高時代に作られていた。
私たちの知らない高校時代からの 活躍や 敗北や 喜びが詰っている
刻まれた歴史と 持ち主の想いが あの時の重みだった。
その持ち主は 静岡県藤枝在住の郷里さん。
ずっと藤枝東高校を見守り続け 今も尚 藤色の誇りを継承している。
自分の子供たちと 一緒に遊び 一緒に成長を見守って来た それが岡田だった。
その岡田が地元校・藤枝東に入学し サッカー部での活躍を願って作られた横断幕
「こーんな小さな文字をね 何回も何回も拡大して 写し書きしたんですよ」
当時を振り返りながら 郷里さんが言った。 全てが手作りだった。
鮮やかな藤色の布に ひと針 ひと文字 想いを込めて作られたのだろう
何より 岡田を見守り続けてきた その気持ちが 詰まっている
それが 言いようのない尊さだった。
袋から取り出し 少しずつ広げる 鮮やかな藤色が目に入る
幾重にも畳まれた布を開くたび
藤枝の風が 藤枝の景色が 藤枝の想いが 溢れてくる
岡田にとっての原点が この幕いっぱいに詰まっている
そう思うと決して軽はずみに扱えない重みを感じた。
それは片側を持つルンバ氏も同じ思いだった。
この横断幕を持って来たのは 関東在住のひゅいさん
山形戦に来道する際 埼玉のさくたろう氏から手渡され 一緒に海を越えて来た。
藤枝の郷里さんから 埼玉のさくたろう氏へ さくたろう氏からひゅいさん
そして ひゅいさんから札幌のサポーターへ と
まるでバトンリレーのように 手から手へ 札幌まで運ばれて来た。
そして携わった誰もが その尊さを感じ 大切に扱ってきた
藤枝の風を 郷里さんの想いを 僅かでも広げたかった。
ただ 試合は山形に完敗した。
藤色横断幕の厚別デビューはホロ苦いものとなった。
“よかったら 私も 立ち合わせて頂けませんか”
junkoさんから メールを頂いたのは その翌々日。
山形戦での横断幕掲載を伝えると 今度は是非一緒に と声を掛けてくれた。
むしろこちらがお願いしたかったが 声を掛けれずにいたところ。
その気持ちがとても嬉しかった。
ほぼ毎日 練習を見に行っているjunkoさん
どんなに寒かろうと どんなに暑かろうと 必ず見に行き 声を掛け 写真を撮る
「もう うるさいと思われてるんじゃないかな」 と笑う。
一時期 岡田が試合に出られなかった時も 彼の傍にいた。
少しでも元気になれるようにと 言葉を掛け励ます
岡田は 「大丈夫ですよ 調子は良いですよ」 そう言っていたと言う
「でもね 無理してるんですよ それが分かるんですよ」
junkoさんはそう言う。毎日見ているからこそ分かることなのだろう。
当時のことを振り返りながらも 涙が滲んでいた。
それほどつらかった時期を乗り越え ピッチに姿を見せた岡田
「もう 涙でね ちゃんと試合 見れなかったんですよ」 その言葉に胸が詰った。
岡田は感謝していると思う。
多少 煙たく思う時はあっても きっと感謝していると思う。
そして 7月9日 対甲府戦。
junkoさんの手を借り 2度目の横断幕が張られた。
どの位前から どのゲートに並べばいいのか junkoさんが色々と調べてくれた。
前回 余りにもひっそりとした場所に張ったため 今度こそはと気合が入る。
僕らが厚別に着き 並んでいると間もなくjunkoさんも合流する
「宮の沢で岡田君を見送ってすぐ来ました」 とjunkoさん
程なくして開場となり 入場ゲートをくぐる。チケットの確認で手間取り焦る。
一直線に階段を駆け上がり 上から見下ろすと すでにずらっと張られていた
焦る。急いで階段を駆け下り バックスタンドのフェンスに向かう
良い場所が空いてないかと探す。探す…探す
あった。 ルンバ氏とjunkoさんが すでに見つけていた。
ホーム側 左コーナーフラッグの直線上 良い場所がぽっかりと空いていた。
今度は最高の場所だ。この場所なら必ず岡田の目に入る。
テレビに映れば藤枝にも届く。きっと喜んでくれる。
ルンバ氏もjunkoさんもすでに喜びが溢れている 本当に幸運だった。
すぐに横断幕を出す。junko さんにとっては初めての藤色横断幕。
広げた瞬間 本当に嬉しそうな顔をした。僕らも胸が一杯になった。
上の紐を結び はらりと伸ばす。強い日差しを受けて 藤色が鮮やかに色づく。
色んな人の 色んな想いが 最高の場所で 披露することが出来た。
「記念写真 撮りましょうか?」 ルンバ氏がjunkoさんに言った
「いやいや…そんな…いいですよ」 junkoさんはひどく恐縮し遠慮していた
「今度はいつ張れるか分からないから」と言うと 嬉しそうにファインダーに納まった
郷里さんを知る僕らが この藤色の横断幕に特別な想いがあるのは自然なのだろう
だがjunkoさんの表情を見ていると 僕ら以上にこの横断幕を尊く思っているようで
何か言いようのない感激が沸いた。手伝ってもらって本当に良かった。
2度目の披露は良い場所にでき 試合も3-1と勝利した。
遠く藤枝からは 岡田のご両親も喜んでくれた と報告を受けた。
一人の想いが 多くの人を伝い 形となった。
一人の想いが 人と人を結び 一本の線となった。
そう実感できた。それが嬉しかった。
横断幕は 布の上に書かれた文字 ただそれだけの物だろう。
だが そこへ込められた気持ち 刻まれた歴史 継承して行く熱意
全てが重ならなければ 存在しない。
だからこそ 尊く思うのだろう。
選手にもきっと届いていると思う。感じていると思う。
今年も どこかの試合で この藤色の横断幕を広げる機会があると思います。
その時は こんな想いがある事を 思い出して頂けたら 幸いに思います。
今はただ 岡田の復調を祈るばかりですが いつかまた鮮やかな藤色を
札幌の地で そして岡田の活躍と共に 広げられる事を願っています。
その藤色の風は 遥か海を越え
北の地へ渡ってくる
幾人もの人を伝い 想いを継承して行く
広げられた藤色の布は 爽やかな風となり
ひた走る背番号2を 後押ししてくれるだろう。
06.2.22記載