復活・新たなる敵
~敵は思いがけぬ所から来る!~
昆布館で完全復活を遂げたゴクウ
意気揚々と湯の川温泉某ホテルへ到着。
ホテル 「いらっしゃいませ」
ゴクウ 「はい いらっしゃいましたよ 荒行を耐えたゴクウですよ」
ホテル 「お部屋は513号室になります」
部屋に入り 荷物を置くと 三蔵はすぐさま窓を開け放った
そこには 果てしなく続く 海が広がった。
三蔵 「お おおぉ! 絶景じゃ ゴクウ 見よ 海じゃ」
ゴクウ 「おおぉぉ! 凄いっス カンドーっス!」
激安ツアーだが思いの外 窓からの眺めは良い。
苦行に耐え 真駒内でリタイヤしないで良かった
ゴクウは海を眺め しみじみそう思った。
と ふと隣のホテルの屋根を見ると なにやら大量の鳥がいるではないか
カモメだ! カモメの大群がホテルの窓を見ている。
これは! ゴクウは またも閃いた!
ゴクウと言えば「カモメ使いの名手」である。約3名には超有名な話しだ。
すぐさまカバンの中をゴソゴソ探し出す
三蔵 「なにをし始めるんじゃ?」 ゴクウ 「ごあいさつ代わりに」 と言い
長万部で買った非常食 ジンギスカンまん を取り出した
ゴクウ 「ジョナオよ ジョナコよ はるばる来たよー よろしくなー」
そう言い ジンギスカンまんを千切っては投げた。
来た!みんな挨拶に来た。
どんどん寄って来る!すぐ目の前だ。
ジョナオ・ジョナコの大群は われ先にと群がった。
気を抜けば指先から奪って食いそうな勢いだ。
一瞬 ビビる。だが こんなことで臆しては「カモメ使い」の名がすたる。
勇気を持って カモメの上に立ち カモメと同化する。それが名手の技だ。
ジンギスカンまんは あっという間になくなった。
何か他はないかと探したが
三蔵 「いい加減にしときなさいよ」
坊主と思えぬ厳しい言葉で断念した。気がついたら小1時間が経っていた。
夕食まであと40分。焦った。やらなければならないことは山とある。
急いで風呂に行った。大浴場の戸を開ける。誰もいない。スリッパもない。
一番風呂だ。どの湯船にも人はいない。泳いでも怒られない。
だがゴクウは泳がなかった。5分で風呂を出た。
カモメが気になったのだ。腹を空かせてるジョナオ・ジョナコが心配だった。
急いで部屋に戻り 「買い物してくる」と売店へ走った。
目ぼしいものを探す… あった!これだ! かっぱえびせん!
ジョナにはかっぱえびせんだ。仙台・松島の遊覧船でもそうだった。
勇んで部屋に戻り すぐさま窓を開け放った。
ゴクウ 「待たせたなー」
すでにカモメを自由自在に操っていた。
まさに動物使いの名手 ムツゴクウだ。よーしよしよしだ。
勢い余ってハトまで来た。
またも時を忘れてしまった。
三蔵の 「5時半!」の叫びに我に返った。夕食の時間になっていた。
「行く前に 手ぇ 洗いなさいよ」 三蔵に言われ えびせんのベトベトを流した。
どうにも三蔵は 腹が減ると素に戻る。切羽詰るのだ。修行が足りんな。
夕食は まぁ普通だった。
なんせこっちは激安で来てる。文句を言える立場ではない。
食い終わって部屋に戻り またジョナと戯れようとした時 携帯が鳴った。
「着いたか? 今 どこよ?」
函館に住む悪友からだった。事前に「行くから」と伝えておいたのだ。
ゴクウ 「おう着いた 今 ホテル これから そっち行くから」
急いでタクシーに乗り 駅近くのロッテリア前で 久々の再会を果した。
悪友 「メシ食ったか?」 この悪友と会うと まずはこの言葉から始まる
「今 ホテルで食ってきた」と言っても
「じゃ カニ食うか? イカは?」 だ。 おまえ人の話し 聞けや。
そして会話のほとんどは 「バカでねえのか?」 と 「なにやってんのよ」 だ
9割は説教だ。これも修行か。三蔵は隣で「その通り」とうなずいている。
そうか この 「こん西遊記」 は肉体だけじゃなく 精神も鍛えられるのか。
ちなみに この悪友 単身 函館に渡って早20年。
10代の頃 一緒にバカなことばっかりやった。
そんな彼が 今は函館で店を何軒か持つ 立派な社長になっていた。
嬉しかった。体を壊したと聞いて心配にはなったが イキイキとしていた。
函館へ行った際には どうぞ 「海鮮炭焼 そーらん亭」 へ。
函館駅の近く 松風町7番6号 ロッテリアの角を曲がるとすぐです。
函館の海の幸が堪能できます。店主の顔は怖いですが。
なぜか この店で 沖縄のアイスを食べた。
ここでしか食えない逸品らしい。意外と美味。
そして 悪友の説教を2時間ほど浴び ホテルへ戻ることにした。
電車で帰ろうということになり 駅前の電停から乗ってみる
湯の川温泉という停留所があるのだから ホテルへ着くのは簡単だと思っていた。
がしかし。甘かった。
降りた停留所からホテルは見えない。
冷たい風が吹きつけた。
どっちへ向えばホテルなのだ? 時間は夜9時 繁華街の向うは真っ暗闇だ。
手元に地図はあるが そんなもの使いこなせるぐらいなら 迷子の心配はしない。
ホテルはあっちか? 風向きと潮騒を頼りに 暗闇へと足を踏み入れた。
まずはホルモン屋のいい匂いに釣られ そこの角を曲がってみた
匂いが消えた所でまた曲がる。気がつくともう足下も危ういほど暗闇だった。
三蔵 「ゴクウよ 本当にこっちでよいのか?」
ゴクウ「 …大丈夫でございます たぶん」
“…たぶん”の所は聞こえないように言った。バレれば大変なことになる。
道は舗装されてるものの 完全な住宅街だ。温泉街の佇まいではない。
“迷子かもしれない” その言葉は頭の中でハッキリと聞こえた。
ヤバイ これはヤバイ。見知らぬ土地で迷子。これは大難だ。猛烈な寒さが襲う。
ゴクウ「にしても 沖縄のアイス 美味かったっスね」
てきとうな会話でごまかそうとしたが 三蔵には全て分かっていた。
三蔵 「湯の川は 温泉街と住宅街が混合してる珍しい町なのだよ」
ゴクウ「ほー さすが三蔵さま 博識でございます」
三蔵 「だからこの住宅街を抜ければ ホテルはすぐそこじゃ」
ゴクウはホッとした。迷子ではなかったのだ。
少し歩くと ようやくホテルの灯りが見えた。
ゴクウ「三蔵さま!ホテルです!ホテルが見えました!間違ってなかったっス!」
三蔵 「分かっておる」
それにしても函館 なかなか意表を突いた攻撃を仕掛けてくる。
湯の川温泉の電停に 湯の川温泉街はない。これは盲点だった。
結局 歩いたのは10分足らずだと思うが 果てしなく長い時に思われた。
真っ暗闇の中。すれ違う人もなく。ジモティしか通らない道。凍るような寒さ。
そんな経験がこれからの人生に大きく役立つはずだ。そんなことはない。
ようやくホテルに辿り着いた。
すでに手も足も痺れるほど冷たくなっていた。
ゴクウ 「ま まずは 風呂 入ってきますわ」
タオルを持って風呂へ向う とその時 またまたゴクウは閃いた
さっきは大浴場へ入ったが 今度は露天風呂へ行ってみよう と。
このホテル 大浴場と露天風呂が別々なのだ。違う扉から入らなければ行けない。
最初の風呂へ入った時に分かったのだが 面倒なので行くのをやめたのだ。
ゴクウ 「よし 今度は 露天風呂だな」
中へ入ると 先客は1名だけだった。ゆっくり冷め切った体を湯に浸かる。
露天風呂。夜空。海。潮騒。冷たい風。遠くにはカモメが波に漂っていた。
「最高や」 ゴクウは誰へともなく呟いた。
すると先客の 60代ぐらいだろうか 紳士の方が声を掛けてきた
紳士 「いい湯ですよ」 実に落ち着いた雰囲気のある方だった。
その言葉のイントネーションに関西訛りが入り 土地の人ではないことは分かった。
紳士 「どこからですか?札幌 そうですか 私は兵庫から来ましてね」
そんな会話から始まった温泉ならではの交流。
がしかし この後 この紳士が 新たなる試練に変貌しようとは。
それは他愛もない会話から始まった。
紳士は定年後の旅行で函館へ来たという。それまでしていた仕事の話しから
多少の共通点があり 楽しい会話がなされていた。
だが ゴクウは長風呂がダメだ。2分も入れば十分だ。だが既に5分は経っている。
「そうですか そうですか」 と言いつつも 出るタイミングを見計らっていた
何となく話しが途切れた。今だ。上がろうとしたその時。
紳士は 何を思ったか 唐突な言葉を口にした。
紳士
「UFOは信じますか?」
ん?なんだ?ユーフォ?
なにを言い出すんだ このオヤジ。
仕方なく もう一度 湯船に浸かる。
紳士 「いや 来る飛行機の中で読んだ本が面白くてね」
なんだ本の話しか。それなら許せる と相槌を打ったのが間違いだった。
紳士 「NASAには もの凄い研究をしている人たちがおりましてね」
フムフムと聞いた。だが そこからはこのオヤジの独壇場だった。
完全にオヤジは豹変した。
もう何を言ってるかさえ分からない。宇宙語だ。
いや このオヤジ自体宇宙人だ。
宇宙がなんたらかんたら。DNAがなんたらかんたら。
終いには 人類の危機はもうすぐ訪れる ときた。
函館 湯の川 ホテルの露天風呂でだ。
夜空と海 そして温泉に浸かりながら 人類の危機だ。
風情もなにもあったもんじゃない。
「そりゃタイヘンだ」 となるか? オヤジ おのれの頭は大丈夫か?
だがオヤジの講演は終わる様子もない。もう15分は続いている。
もう うなずく事も まして「なるほど」などと言う事もない。
そして 何がツラかったかと言うと
この15分の間 何人も客が来たことだ。
オヤジはゴクウに向って話している。そこへ他の客が入ってくる。
湯船はさほど大きくない。したがってあちこちで会話がされる事もない。
他の客はただ2人の会話 いや オヤジの講演を聞くしかないのだ。
だが そんな異次元の空間が居心地がいいわけがない。
皆 湯船から1分ほどで上がる。一緒に上がりたかった。
だが オヤジの講演は終わっていない。ここは耐えるしかない。
そうして何人もの新客を見送った。
そして その目は異様な人間を見るような目で 皆 去って行った。
おそらく 他の客は こう思っただろう
こいつら オカシイな。宇宙だってよ。人類の危機だってよ。
関わりあいにならない内に 上がろう。
きっとそうだ。同じ気持ちだ。だが今は当事者だ。オカシイ側の方だ。
もうヤメてくれオヤジ。おれは同類じゃないんだ。
そっち側じゃないんだ。分かってくれ。許してくれ。
長湯も20分は超えただろう。精神的にも肉体的にも限界だった。
と その時 オヤジは こう言った
「まぁ 後は 本を買って読んでくださいよ」
夢オチのような言葉だが シメの言葉として受け取っていいかな。
いいな。いいよな。よし 今だ! 瞬間 ザバッ 一気に立ち上がった。
一瞬 フラっとする。ダメだ。しっかり そして急げ!
ゴクウが上がった3秒後 後ろでザバッっと人の上がる音がした。
ヤバい。オヤジも上がった。急げ。また掴まったらタイヘンなことになる。
ヨロけながら何とか脱衣所まで辿り着いた。意識が朦朧とする。
パンツ。シャツ。これだけ着けると浴衣は肌蹴たまま風呂を出た。
体など拭いてない。頭も体もベチャベチャのままだ。
それでも急がなければ。今 オヤジに掴まれば命はないぞ。
入り口の扉を出るとダッシュだ。エレベーターまでの道を振り返らず走った。
ゴクウ 「どうか ついてきませんように ついてきませんように…」
浴衣ははだけ 髪はボタボタ 必死の形相で館内を走るゴクウ。
他の人が見たらどう思っただろうか。あの危機的状況を何と説明すればよいか。
幸い 誰にも会わずに部屋へ戻ることが出来た。
ドアを閉めると二重に鍵をした。ドアに耳を近づけてみる。足音はしなかった。
助かった。まさに命からがら逃げ帰った。
三蔵 「遅かったな 何かあったのか?」
テレビを見ていた三蔵が ゴクウの異変に気付いた。
ゴクウ 「ハァハァ… 今 風呂で」
三蔵 「まぁ 落ち着け まずは頭を拭いて ゆっくり 話せ」
ゴクウ 「ハァハァ …UFOが …宇宙が 」
三蔵 「? 」
ゴクウ 「…だから 人類の …危機が …」
やはり あの出来事を説明するのは無理だ。
あまりにも摩訶不思議な出来事だった。マジで怖かった。
さすが苦行の旅。難敵は異星人にまで及んでいたのだ。
人の姿で現れ 油断をさせておいて攻撃する。
見事な技だ。すっかり油断した。またも防戦一方な戦いだった。
いまだ髪も乾かせず 呆然とするゴクウに 三蔵は言った。
「またひとつ 修行を積んだな」
ようやく我に返ったゴクウは 窓を開け 真っ暗な海を眺めた。
ザァ ザァ と波の音が聞こえる。少しづつ気持ちが安らいだ。
觔斗雲号のシート 酔い 復活 ジョナたち そして説教 最後には異星人。
今日一日で多くのことがあり過ぎた。身も心もヘトヘトに疲れた。
まさに修行の旅。ひとときも休まることはない。
思えば出発前 楽しさだけを追い求めていた自分を強く戒めた。
暗闇の潮騒を聞きながら 気持ちを落ち着け 缶コーヒーをグイっと飲む。
明日もまた 戦いだ。
新たなる闘志を燃やすゴクウ。爆睡の三蔵。
2人の旅はまだまだ続く。
最後まで戦い切れるかゴクウ。美味いもの食い切れるか三蔵。
次回 函館完全制覇。そしてやっちまったヤツら。
こん西遊記 完結編。 戦い切った2人 こうご期待。