完結編 完全燃焼
~辿り着いたのは天竺か?それとも…~
「…きよ… クウ 起きよ ゴクウ 朝じゃ」
三蔵の声で 目が覚めた。6時半。
函館 湯の川温泉 某ホテル 2日目。
まずは ジョナたちに朝のあいさつだ。窓を開ける。
おお ジョナたちよ。もう待ってるではないか。
よしよし よーしよし。
またもムツゴクウになる。
そしてカッパえびせんだ。 残り少ないので 半分に折る。
名人とはこういった地味な作業を黙々とやるものだ。
カッパえびせんを1本1本 ポキポキと折る。それが愛情だ。
そして 撒く。名人には撒き方にもコダワリがある。
まずは えびせんをジョナに見せる。ジョナは空中で止まりながら 「くれ!」と言う
目と目があったら コミュニケーションの完了だ
そうして初めて ジョナの口に向って投げてやるのだ。
ジョナは 「アーザース」 と言って去って行く。これが正攻法である。
ただ闇雲に撒くのは素人だ。コミュニケーションが大事なのだ。
それと手から直接やるのは 危険でもあるし ジョナも気を使う
熟練者のみが許される技なので 素人さんはなるべくそうしないように。
あんまり調子にのって戯れてると ジョナに連れて行かれた。
そうしてジョナと交流を図ったゴクウ。
ふと三蔵を見ると 爆睡だ。さっきひとを起こしといて 自分は爆睡だ。
さすが悟った方は違う。 やることもなく 風呂でも行くことにした。
と その時 なにか嫌な予感した。何?なんだ?
【解説】
昨晩 露天風呂で出会ったオヤジ。
一見 紳士に見えるが 宇宙を語るとんでもないオヤジ。
終いには「人類滅亡説」を語った。おそらく異星人。
あー あのオヤジか…
露天風呂は止めた。危険すぎる。部屋のシャワーにしようか と思った。
が それまた情けない話しだ。温泉に来てシャワーとは それじゃ弱すぎる。
大浴場の方へ行くことにした。朝風呂だ。入るとすでに結構な人がいる。
ビビってる。あのオヤジがいないか 確かめ確かめ 風呂に入った。
こんなに落ち着かない風呂は初めてだ。
そう考えると あのオヤジの脅威はたいしたものだ。感心する。
朝風呂から上がると 三蔵は起きていた。
三蔵 「朝メシじゃ 行くぞ」 こういうとこだけは早い。
朝食を取りながら 今日の予定を決めた。
まずは観光。三蔵は 元町へ行く と言った。坂が見たいらしい。
五稜郭も押さえなければならん らしい。そして函館山だ。
この三ヶ所は 必ず行くと断言した。がしかし いずれも場所が異なる。
しかも函館山は夜景と限っている。
そして何と言っても サッカーだ。1時から千代台。これがメインだ。
さて このスケジュールをどうしたもんか。
約30分に及ぶ 濃密な会議が開かれた。観光パンフレットと格闘した。
結果 まず交通手段として 電車・バス利用が義務付けられた。
タクシーでは修行にならんのだ。決してゼニ・カネの問題じゃない。
そこで 見つけ出したのが これ
電車・バス 一日乗車券。¥1000。
その日中なら 何回でも乗り降りできる優れもの。
しかも函館山にも乗車可能。観光名所が点在する函館にはうってつけだ。
交通手段は決めた。あとは順序だ。時間との戦いになる。
まずは朝食後 元町制覇に乗り出した。
八幡坂 二十間坂 登っては振り返り眺める。ほー。
旧函館区公会堂 ほー。立派な建物だ。中に入ってみた。入場料!すぐ出た。
港が見える公園 ほー。改装中だった。
ハリストス教会 ほー。
と その時 近くの中学生らしき修学旅行グループが声をかけてきた
「すいません 写真をお願いしたいんですけど…」
心優しきゴクウは笑顔でカメラを受け取った。
がしかし。それはまたも難敵の仮の姿だった。
ひとりの少年からカメラを受け取ると
「これもお願いします」 「私のもお願いします」
なんと次から次へと 幾人もがカメラを手渡して来たのだ。
今度は優しさにつけ入り攻撃してくる。何とも手の込んだ攻撃だ。
またも防戦一方だった。4台分。全てカメラマンとしてシャッター切った。
それからは修学旅行生を見るたび さり気なく逃げ回った。
恐るべし函館修行。もはや観光さえも気が抜けない。
元町を完全制覇したゴクウと三蔵は 次の目的地を赤レンガ倉庫群とした。
この時 時間は午前11時。千代台では開場が始まった頃だ。
のんびり観光してる場合か?いやこれも戦いの内だ。修行なのだ。
赤レンガの材質について熱く語りあい なぜかイシヤのチョコドリンクを飲んだ。
元町から海側まで制覇したら いよいよ千代台へ向け出発だ。
その前に 昼食を買わなければならない。メニューは一週間前から決めていた。
ラッキーピエロのチャイニーズチキンバーガーと
ハセストの焼き鳥弁当
王道中の王道だ。
最近 正しい観光客のなんたるかを分かってきた。
若い頃は 「観光?興味 ねぇよ」 と斜に構えてたが
今は誰よりも観光客だ。 全身どっぷり観光客だ。 そっちの方が潔い。
そんな人間性の変化を伴い ハセストとラッキーピエロは確定していた。
店に入る。! 大混雑だ。しかも店内には赤黒が多い。みんな正統派だ。
ゴクウはラッキーピエロ。三蔵はハセストの二手に分かれた。
注文をいい 出来上がるのを待つ。 5分…10分…15分… お 遅い…
間もなく11時半になろうとしている。千代台が気になる。
20分経過…「ゴクウさま」 ようやく来た。即効で店を出る。
隣のハセストに入る。三蔵の方はまだ出来ていなかった。
焼き鳥弁当もハンバーガーも その場で作っているから時間がかかるのだ。
それでも 待つだけの価値はある。そのことは後で食べた時に知った。
ようやく買えた食料を持って 千代台へと急いだ。
電車を降りると目の前はスタジアム。気持ちが高ぶった。
と その時 後方で声がした 電車から降りようとしている人だ。
車掌 「カード 違ってますよ」
客 「あ あ すいません あれ あれ」
どうやら 違うカードを精算機にぶち込んだ人がいるようだ。
出口で異常に手間取っている。 ただ その姿に 見覚えがあった。
Hゅいさんだ。
関東から来る事は知っていたが
こんな形で会うとは…。
かなりな天然ぶりを炸裂させながら 再会を果した。
スタジアムでは通路を挟んで前後の席となり 観戦モードに拍車が掛る。
対戦相手は目下首位の柏 負けられない相手だ。異常に気合が入った。
柏のサポーター 皆々さまも気合十分だ。
いよいよ 試合が始まった。
フッキーーーーーーー!(喜)
フッキーーーーー!!!(怒)
そ だ ーーーー!!!(超怒)
以上。
Hゅいさんとスタジアムで別れ 一旦 ホテルへ戻った。
今日の晩メシも5時半。即効で食べて また観光が待っている。
若干フライング気味に食事会場へ行った。
「いいですよ~ どうぞ~」
その言葉に甘え まだ誰もいない会場で ポツンと2人 夕食を開始した。
あまりにもな静けさに 会話もできない。皿のカチャカチャとする音だけが響いた。
結局 食事中 誰も来る事はなく 2人だけの晩餐会は終わった。
逃げるように会場をあとにして また 観光へと飛び出した。
まずは 五稜郭 ほー。 新と旧が並んでいる ほー。
新タワーは建ったばかりだ。旧の倍近い高さになった。これは昇るしかない。
がしかし 現在午後6時45分。タワーの営業時間は午後7時まで
あと15分しかない。15分のために¥840×2を使うのか?
三蔵 「決まっておろう 昇るぞ」
一気に行った。 日が沈み 赤とグレーが入り混じった町並み。
函館山とは一味違った景観。360度 グルリと眺めた。ほんとに美しい町だ。
「怖いからもう降りる」 三蔵が言う。 滞在時間7分。
五稜郭タワーを降りると クライマックスは 函館山だ。
電車で函館駅まで行き そこからバスで函館山を目指す。
バス会社の人に 乗るバス・帰りのバスなど あれこれ聞き 行程を決めた。
現在 午後7時40分。山頂まで行き 駅まで戻って
そこから湯の川までバスで帰る。電停からホテルまで遠いのでバスにしたのだ。
この行程を逆算すると 函館山 山頂には30分の滞在時間しかない と言う。
五稜郭といい 函館山といい まるでスタンプラリーのようだ。
山頂行きバスが来た。このバスも勿論 一日乗車券で行ける。
¥1000の券をとことん使う。 泣きが入るまで こき使う。
乗車券も本望だろう。皆さまもお買い求めの際は 泣きが入るまでどうぞ。
函館山。
この旅 クライマックスに相応しい
幻想的な景観だ。
こうして函館を見ると 実に不思議な地形をしている。
駅前 直線で僅か1kmの両側を海で挟まれ
陸の先端にはポコッと この函館山がある。
その昔 駅周辺は海の中だったらしい。函館山は島ということになる。
そう考えると あの美しく光る町並みも 本来はなかった景色だ。
陸になり 道ができ 街になった。それを今 眺めている。
実にロマンチックではないか。
ビユウウゥゥゥ
そんな甘いムードはない。 その日 函館は強風。極寒だった。
夜景を楽しむなどできない。5分で非難だ。
やはり試練は最後まで続く。つくづく厳しい修行だ。
「30分しかない」 と思っていた滞在時間も 逆に余っている。
三蔵がおみやげを選び出した。これまた正統派な観光客だ。
がしかし 修行の旅にみやげって どうなんだ?
ただ ここで買ったクッキーが 事の外 好評だった。
函館山を満喫し みやげも買った。
朝から元町 赤レンガ。ハセストにラッキーピエロ。
千代台でサッカー。五稜郭。そして夜景。
10時間にも及ぶ観光。
まさに 函館 完全制覇だ。
達成感に包まれながら 湯の川行きのバスに乗った。
幾つかのバス停を通り過ぎた時 三蔵はパンフレットを指差し言った
「
啄木小公園がある」
見ると 湯の川温泉の手前ではないか。しかもバス停もある。
降りて 達成感をさらに高みにするか。 完全なる制覇を目指すか。
がしかし このバスは最終便。体は冷え切っている。体力も限界。
「
もう いいじゃないか 俺たちは 十分 戦ったじゃないか」
挫けてしまった。
三蔵にそう告げると 力なく目を閉じた。
それでいい。 今は負けたっていいじゃないか。
あと少し もう少しを残して 戦いを終える。
だからこそ 次の目標がある。そうじゃないか。
いきなり全てを求めるものでもない。
大きな勝利と 少しの敗北。 次への目標。
ほんの僅か この旅の答えを見つけたような気がした。
全力を出したから 出し尽くしたからこその 答え。
その昔 世間を斜めに見ていた時には 到底 見つけられない答えだ。
ヘトヘトの体で ホテルへ戻ったのは 夜の10時半。
疲労と満足と少しの挫折。あらゆるものが体を包んでいた
そんな複雑な何かを 洗い流そうと風呂へ向った
湯に浸かると この2日の出来事が 走馬灯のように蘇った。
ありとあらゆる敵と戦い 経験を積んできた。
そして何かを悟ったか と言われれば そうではない。
ここは天竺か 聞かれれば そうではない。
目的も 目的地も
まだ 遥か先にある。
それだけは確かだ。
ゴクウと三蔵の西遊記。
その旅は終わらない。
そしてあのチームも。
2人は いずれまた 旅に出るだろう。
その時まで また。
函館 手強かった。
函館 楽しかった。
函館 いつか また。
ゴクウ
三蔵さま!たいへんです!
塩ラーメン食うの忘れてました!
こん西遊記 完