それは 夏の夜空に咲く華。
今年の花火大会は これまでより ひときわ華やかに そして楽しく
忘れられない出来事となった。
ここ数年 花火大会を見に行くようになった。
それまでは観光や風習といったものに まるで興味がなかったのだが
いい年かっぱらってきたせいなのか 「意外と楽しいもんだ」と思えるようになった。
そんな典型的な例が 「花火大会」。 ここ数年 恒例行事となっている。
札幌では夏に3度の大きな花火大会が行なわれる。
今年も7月中旬 先陣の「道新・uhb主催」をカミさんと見に行った
今年は早めに家を出 河川敷のベストポジションを確保し
万全の体制を以って この夏夜の華に臨んだ。
目の前に打ち広げられる迫力・美しさ・音 全て堪能し
満ち足りた気持ちで 家路へと向った。 帰り道 カミさんがポツリと言う
「今度は 両親にも 見せてあげたいな」
両親は札幌から2時間ほどの 元炭鉱町に住んでいる。
私達が幼い頃 町は活気に溢れ 祭りともなれば多くの露店が出店し
河川敷で行なわれる花火大会も 毎年盛大なものだった。
だが炭鉱閉山と共に町の灯は 日を追う毎に痩せ細り
ついには花火大会もやらなくなってしまった。
そんな故郷の そしてその町に住む両親への想いもあっての
「見せてあげたい」 と言う言葉は 私の胸の奥深くまで染み込んだ。
「…ああ」
私の返答は短くも 決意に満ちていた。
最高の夏にしてみせる。最高の花火大会にしてみせる。
そんな決意だった。
「おとうさんがね 行ってみるか って言ってくれたよ」
義母から その連絡を受けたのは3日後のことだった。
70を越える2人がバスに乗り札幌まで来る それはそう簡単なことではない
だが娘の想いを受け止め 家族が全員揃う事の大切さを選んだのだ。
私の熱意はいっそう強くなった。
その翌日 さっそく豊平川河川敷のホテルを探した。
もちろん両親に最高のホテルで花火大会を見てもらいたいためだ。
ネットで地図を確認し どのホテルからの眺めが良いか候補を出した
いくつかのホテルから
最高を選ぶのだ
激安優先ではない。
みなぎる情熱を全てキーボードに打ち込み 知能・神経を集中した
だが 時は既に2週間を切っていた。どこも満室 次第に焦りが出てくる。
「…ここもダメ …ああ ここもダメか…」 そんな行き詰まりを感じた。
と その時 1軒のホテルのプランが目に留まった。
「カップルプラン・禁煙ルーム」
これだ!何の問題もない!まだ空きがある!しかも
激安だ!いや
最高だ!
即決だった。急いでキーボードを打ち込んだ。この間に埋まってしまうかもしれない。
早く もっと早く 頼む 空いててくれ 祈るような想いで予約を終えた。
その翌日 ある出来事が起こった。
ホテルの予約を済ませ ひと安心していた私だったが
カミさんが 「本当に予約できてるか心配だ」 と言う。
この時も 「大丈夫さ」 と何度言っても 「心配だ」 を繰り返す
そうとなればもう確認するしかない。ホテルに電話をした。
k 「もしもし あーすいません 予約の確認をしたいんですけど」
H 「予約ですね … はい 承っております」
予約はできていた。
電話口でカミさんにそう伝えると ようやくホッとした表情を見せた。
と その時 ものはついでと思い 要望などを言ってみた
k 「あの~ 泊まる日って 花火大会ありますよね それでちょっと…ですね…」
その時 強い思い入れがあったわけではなかった。
ただちょっと要望を聞いてくれたら と そんな気持ちから出た言葉だった。
せっかく両親が来るのだから出来たら良い部屋にしてもらえれば
出来る事なら窓から花火が見れたら そんな思いがあったのだ
k 「実は両親が泊まるんですけど 花火の見れる 窓側の部屋…なんてねぇ」
H 「そうですか… 実はですね …ホテルの角度が ですね…」
ホテル側が言うには 花火の打ち上げ場所とホテルの角度が違い
窓からは花火が見れないとのこと その代りホテル下では
ビアガーデンがあり そこで花火が見れるようになっています と言っていた。
これはどうしようもない。ホテルの角度の問題である。そこは諦めるしかなかった。
k 「そうですか… でも 出来れば窓側のほうの部屋でお願いします」
H 「はい かしこまりました それではお待ちしております」
多少残念な気持ちもあったが 予約は出来ていたし 要望は伝えた。
私の出来る精一杯はした と満足感があった。
だが 電話を切った後 カミさんの顔を見ると 妙にニヤついている。
なんだ?何か予想外に嬉しいことでもあったか?
いや そんなことはない。部屋から花火は見れないのだ。そう喜ぶものでもない。
もう一度カミさんを見た やはりニヤついている。
しかも そのニヤニヤが 「
おまえ やったな」 というニヤつきなのだ。
? オレが何をやった?変なことは言ってないし ミスもなかったはずだ。
頭をフル稼働させ ホテルと私の会話を再生してみた
予約の確認 部屋の要望 それ以外は話してない。
やはり そのニヤニヤの理由が 分からなかった。
皆さんはお気付きでしょうか? この会話の致命傷に。
私はやっちまったのです。それも まったく気付かず 堂々と やっちまったのです。
では その問題の場面をリプレイしてみましょう
k 「実は両親が泊まるんですけど 花火の見れる 窓側の部屋…なんてねぇ」
H 「そうですか… 実はですね …ホテルの角度が ですね…」
もうお分かりでしょうか?
問題の場面はこれ
「花火の見れる 窓側の部屋…なんてねぇ」
窓側の部屋
そんなもの あるわけない。
いや 正確には 全ての部屋に窓はある。
窓側か 壁側か それは本人の立ち位置の問題だ。
私は それを 堂々と 臆面もなく 要望した。
「窓側にしてくれ」 とせがんだのだ。
ホテルの方は さぞ困っただろう。
飛行機じゃないんだ!バスじゃないんだ!そう叫びたかっただろう。
そんなお気の毒な客にも 気を使い 受け止め 丁寧に対応してくれた。
何事もなかったように会話を進めたホテルの方はプロフェッショナルだった。
ひどく雑なパスをピタっと受け止めた まるでベルカンプのように。
普段 こういったミスのしない私は ひどく落ち込んだ
何より私を傷つけたのは カミさんの
「
おまえ やっちまったな」 のニヤニヤだった。
花火大会は無事に そして盛大に終わった。
両親・私達・弟一家 一族勢揃いの楽しいイベントとなった。
私が両親のため予約した部屋は セミスイートの素晴らしい部屋だった。
少し広めのツインが2つ分 ベッドは4つあり バスにはテレビも置かれていた。
両親はいたく感謝してくれ 何度も 「ありがとうね」 と言ってくれた。
要望は言ってみるものだ。 これなら やっちまった甲斐がある。
今年の夏は 良い夏だった。この思い出もずっと心に残るだろう。
ありがとうホテルの人よ。私の面子も保てた。本当に感謝しています。
「窓側の部屋」 その無理難題な要望に見事 応えてくれました。
その証拠に セミスイートの部屋は
両側いっぱいの大きな窓だった。
「窓側の部屋 お願いします!」 は
「よっぽど 窓好きなんですね」
そういう解釈だったのですね。
皆さまも カッコつける時は 絶対
やっちまわないように。
どうかお気をつけて。