カミさんは言った 「時代は今 帯広さ!」 と。
コンサドーレが とんでもなくヘッポコな試合をやってる頃 我々は帯広にいた。
超難敵・日勝峠をヘロヘロになって越えたのが午後3時。ちょうどキックオフの時間
それまでの壮絶なる山道との戦いも 嘘のように なだらかな国道へと変わっていた
「これなら楽勝さ!」 そんなユルさが 車内をが包んでいた。
がしかし帯広。舐めるな十勝。そのダダっぴろさは尋常じゃない。
どこへ行くにも移動距離がハンパねぇ。「ここと ここには行きたい」 とか予定
立ててたって パっと行けるもんじゃねぇ だいたいにして体がついていかねぇ。
それでも 疲れた体にムチ打って 帯広市内は周った。六花亭・柳月・豚丼屋を
しっかり
見て 周った。素人なら買ったり食ったりするのだが こっちは ゆる旅プロだ
そう簡単には買わない まして午後3時を回ったこの時間に 豚丼を食うわけがねぇ
ホテルで晩ごはんが待っているのだ。どんな誘惑があろうと そこはプロの意地
「食わずに 見る」 そうして自分に打ち勝つ事が 「ゆる旅の掟」 なのだ。
今回も その掟に従い 「帯広・豚丼の老舗 ばんちょう」 へは 見学だけで済ませた。
だがなぜか その時 すでに敗北感があった。
疲れた体・食えなかった豚丼 それが敗北感となって我々を襲っていた。
その頃 遠く静岡では 押されっ放しの前半もあと僅かまで来ていた
だが その安心感からか とうとう失点する。札幌 0-1 清水。
峠を越えた安心感と 前半を何とか無失点で凌げそうな油断 よく似た展開だった。
だが帯広 まだまだ難敵が待ち構えていた。次の敵は 「ホテル探し」 だった。
今回 宿を取ったのは帯広市内ではなく 十勝川温泉でもなかった
「幕別温泉」 というのをご存知だろうか?同じ帯広近郊の温泉ではあるが
十勝川温泉は帯広の北に位置し 幕別温泉は南に位置する温泉なのだ
実を言うと 今回 そこを予約するまでは 「幕別温泉」 という存在さえ知らなかった
だが 今回もまた 「カミさんの急な要望による緊急宿探し」 だったため
周辺の宿はいっぱいで 「そこしかない」 というのが決定の理由になっていた。
馴染みのない土地 聞いたことのない温泉 地図に載ってないホテル
この 「ホテル探し3大難問」 を抱えながら 我々が泊まるべきホテルを探した
だが がしかし どうやっても 探せねぇ。ぜんっぜん 見つからねぇ。
疲労はピークに差し掛かっている。早く宿に入らなければ 早く湯に浸からなければ
我々の限界は近い。ぐるぐると見知らぬ土地を周る。焦りと疲労が重く圧し掛かる。
が その時 丘の上に らしき建物を発見!
「あ あれだ!」 間違いない あれが今日泊まるホテルだ!急に勇気が沸いた。
取り戻した力をエネルギーに 丘の上のホテルへと目指した。ゴールは近い。
がしかし またもや難問が。ホテルを発見しながら そこへ行く道が分からないのだ。
ホテルは丘の上にあるため そこへ行く道は1本しかない だがその道をどう探せど
見つからない。またも疲労が我々を襲う。そこに見えてるのに…辿り着けない…
そのもどかしさ その焦り…。ここに来るまでも大きな苦労をしたと言うのに…
「俺たちは 辿り着けないかもしれないな」 ふと そんな思いがよぎった。
思えば帯広を甘く見ていた。帯広に着きさえすれば 簡単に見つかると思っていた
だが 現実は違った。そこからが 本当の戦いだったのだ。我々は甘かったのだ。
そして この旅に重ねるのは 「コンサドーレの今シーズン」 だった。
日勝峠という最大の難関を突破し 十勝平野に出た時は すでにゴールに思えた
それは J1昇格がゴールに思えていた のと同じ感情ではなかろうか。
がしかし 六花亭・柳月 そして豚丼も 「見学だけ」 だけだった。それは敗北であろう
戦いの場まで行くには行ったが 「食わずして帰る」 という敗北なのだ。
予定では お昼までに帯広に着いて 豚丼食って スィーツ食って ホテルへ
となっていた。だが 峠の厳しさで疲労し 十勝のだだっぴろさに戸惑った。
コンサドーレも全く同じだ。シーズン前 それなりに補強し J1で戦う準備はした
だが 昨年主力選手の怪我や外国人補強の失敗で 大きく予定は狂った
不慣れな戦力でのリーグ戦は 戸惑いと疲労を生み 結果 敗戦を重ねたのだ。
「頑張りだけでは適わない」 それが J1であり 帯広だった。
そこに見えるも辿り着けないホテル せっかく辿り着いたのに険しいJ1
何かよく似た境遇に思いつつも ここまで来て 諦めるわけにはいかない。
コンサドーレも 帯広ゆる旅も ここからが本気の勝負なのだ。意地を見せてやる!
そう意気込み ホテル探しへの気を取り直した。と そこでセイコーマートを発見。
すぐに飛び込みホテルの場所を聞く。…すぐ近くの道からだった。
ようやく ようやく ホテルへ辿り着く。その時 時間は4時20分。
コンサドーレが2点目を取られた時である。0-2。厳しい戦いは 更に厳しさを増した
倒れるように部屋へ入る。精神的・肉体的疲労は凄まじく もう動く気すらしない。
腹も減った…そして眠い そんな憔悴し切っているオレに カミさんは言う
「風呂 行くべ」 と。
ああ そうだ ここは温泉だ。温泉に入らなきゃ 来た甲斐がない。そう思うも
ベッドで横たわるオレと それを気にもせず 風呂の支度をするカミさん
悔しかった。疲労困憊なオレと 全然平気なカミさん この対比が敗北感を生んでいた
悔しいが 力の差は歴然である。オレは帯広に負け カミさんに負けているのだ。
「す 少し 休ませてくれ…」 とうとう弱音を吐いてしまった。
その頃 コンサドーレも憔悴していた 後半33分 またも失点。これで0-3。
もはや敗戦は濃厚ってもんじゃなく 決定に近い。
見せつけられる力量差と 間近に迫る敗北 またも同じ境遇に思える。
だが このまま負けっ放しで終わるわけにはいかない。何とか意地を見せたい
そう決心し オレは立ち上がった。微かな意地は 残されたエネルギーとなり
オレを立ち上がらせたのだ。「よし 風呂 行くぞ」 とそう オレは男らしく言った。
空腹・疲労・精神的ダメージ・力量差 全ての戦いに打ち勝ち オレは風呂へ向った
それは男としての意地と ゆる旅プロのプライドが オレを戦いの場へ向わせたのだ
残されたエネルギー 最後の一矢である。
同じ時 コンサドーレも意地の一矢を放った。西 ロスタイムのゴールである。
勝負は決していようと 結果が明らかであろうと 力が残されているのであれば
一矢報いなければならない それが男の意地であり プロのプライドなのだ。
どこまでもシンクロするオレとコンサドーレ。もはや他人ではない。
ここまで来ると 「自分の分身」 と言っていい。そう思うと どれだけヘタレな試合を
やったとしても 憎むべきものは何もない。負けてなお 愛おしく思えるのだ。
とてつもなく大きな敗北感と 僅かに見せた男の意地。
様々な出来事や感情が重なる オレとコンサドーレ
ここまでシンクロするのであれば もしかして 何かのメッセージなのかもしれない
そう思った。この旅を終えた時 何かを掴んでいるかも しれない と。
ならば 探そう と。残留に向けてのヒントを 掴んで帰ろう と そう思った。
幕別のモール温泉は 戦いに敗れた心と体を癒してくれた
最上階の浴場から眺める十勝平野は 広く地平線の彼方まで続いている
夕陽が町を紅く染め その周りにある緑の木々と黄金色の田畑
その美しさは まさに 「絶景」 と言う他ない。そんな広く雄大な そして美しい北海道
を見ていたら 結果の勝ち負けなど小さな事に思えた。そうだ そうなのだ
もっと広い心で この北海道のような雄大な人間にならなければならないのだ。
小さな事にクヨクヨなんかしてられないのだ!
オレは 悟った。
幕別温泉の湯に浸かりながら 人生とは何たるか!を悟った。
まだ帯広に着いたばかりではあるが すでに重要なヒントを掴んでいた。
「小さな事にクヨクヨしない」 そう軽く悟っていた。
ただ風呂上りに カミさんにこれだけは言っておいた
「やっぱさ 豚丼は食っといた方が 良かったんじゃね?」 と。
帯広ゆる旅は まだ始まったばかり。
ここからが本当の困難と それに対するユルさを見せつけたのである。
…以下 続く。(のだろうか?)