36歳。 砂川誠は、今も進化している。
昨年の大晦日で紅白を卒業した北島三郎だが その歌声は全く衰えていない。
我々はサブちゃんの歌をサブちゃんの唄として聴くから 不思議に思わないが
ふと 「この人 77歳なんだよな」 と思うと 驚くというより 怖いとさえ思ってしまう。
なんせ77歳と言えば 完全な老人である。 歌謡より 介護に通う年齢なのである。
だが サブちゃんは神輿に乗り 客を乗せ グレイトなエンターテインメントを魅せる
そして 何よりも驚くのは 高音もリズム感も全く衰えてない事だ。
いくら元気な77歳でも 音感はさすがに衰えるはずだが サブちゃんに衰えはない
試しにカラオケで歌ってみると 「じじいがこんな高音出すのか!」 と気づくのだ。
77歳にして今もなお現役の北島三郎は 歌謡界のモンスターなのである。
そんなモンスターが コンサドーレにもいる。 砂川誠である。
27歳がピークと言われるサッカー選手にあって 今年37歳を迎える砂川 誠。
だが そのキレは全く衰えを見せてない。 むしろ ここ数年は進化しているのだ。
普通 サッカー界の36歳と言えば 現役を退き コーチか解説者をしてる歳だろうし
現役であったとしても ほとんどがGKか守備的な選手である。 攻撃的な選手が
長く続けられないのは スピードやスタミナ あるいは感性などが衰えるからで
それらを持続し なおかつ キレを増してる となれば もはや 「奇跡」 なのである。
そこで考えてみた。 砂川がなぜ 衰えない奇跡を起こしているか? を。
コンサドーレに加入して12年の砂川だが ずっと衰えを見せなかったわけじゃなく
30歳を迎える頃から 体のキレが次第に落ちて来ていた印象がある。
本来 砂川は若々しいスタイルと言うか 普通 ベテランになればチームやゲームを
落ち着かせる役割を担うのだが 砂川は常に自分から仕掛けるプレースタイルで
“スナイフターン” と呼ばれる必殺の切返しも キレがあってこそのものだった。
だが そんな砂川からキレが失いつつあったのは 6~7年ぐらい前だっただろうか
得意のドリブルは影を潜め 必殺の切返しも鋭さが消え 出場機会も次第に減った
自ら仕掛けるタイプの選手がキレを失えば 居場所さえ失ってしまう危険がある
それは おそらく本人も感じていただろうし プレースタイルの変化も考えただろう。
そんな時 砂川に 1つ目の転機が訪れた。 それは ある選手が来た事だった。
中山雅史
その選手が札幌に来た。 当時 中山の年齢は42歳 砂川より10歳も上である。
その頃 砂川はチームでベテランとして扱われ どこか自覚してるようでもあったが
そんなタイミングでやって来たのが 自分よりずっとずっと年上の中山なのである
自分がベテランなどという認識は 完全にブッ飛ばしてしまうほどの選手だった。
しかも中山は 誰よりも真面目に 懸命に そして若々しく 練習に取り組んでいた
そんな姿を間近にして 砂川は影響された。 明らかに雰囲気が変わったのだ。
砂川からベテランっぽさは消え 次第に若さを取り戻して行った。 それだけ影響が
大きかったのだろうし 中山の加入は 砂川のターニングポイントでもあっただろう。
だが 砂川のプレーにキレが戻るまでに至らなかった。 一時期より復調の兆しは
見られたが 常にスーパーサブに留まり そのキレも短い時間しか続かなかった。
その頃のチームは ベテランとしての役割を中山が担い ピッチでは芳賀がいた
キレは戻りつつあるも 台頭する若手と怪我の影響 そして存在価値などが重なり
もはや砂川の選択は “引退か移籍” のどちらかしか残されていなかった。
そして2010年末 クラブの財政難も考慮した砂川は 自ら退団を申し出た。
コンサドーレを退団する決意
それが砂川 2つ目のターニングポイントだった。
コンサドーレの本当のスタートは 04年から始まったと言って過言ではなく
その時から それこそ身を捧げるように チームに尽して来た砂川にとって
退団の決断は大きかったに違いない。 その葛藤や悔しさは 容易に想像できる。
そして おそらく その時 精神的にコンサドーレと決別したのだと思う。
だが その後 コンサドーレは再契約のオファーを出し 砂川は承諾した。
それもまた苦い決断だっただろうが それで ある種 “開き直り” が出来たと思う。
一度 気持ちをリセットした事で 砂川にとって新たなる出発になったのだ。
また河合の加入も負担を軽くさせ そうして2011年に新しい砂川誠が誕生した。
変に気負わず チームを支えなければなどと考えず 常に自分のプレーに徹すると
その輝きを取り戻し その年 全試合に出場し J1昇格に大きく貢献したのである。
こうして砂川は完全に蘇った。 いや蘇ったと言うより 鋭さは更に増していた。
翌年のJ1はケガのため出場は少なかったものの その翌年は鋭いキレを見せ
去年は更に鋭いキレを見せた。 そして今年は ピークを思わせるほどである。
30代半ばにして毎年 キレを増すとは もはや人間業じゃなく このまま行けば
40歳で代表に選ばれ 45でバイエルンじゃないか と思うほど昇り続けている
まさに “生きるアンチエイジング” である。 アンチエイジング教なら教祖だろう。
麻雀界なら小島武夫に匹敵するし 歌謡界で言うなら あれだ 北島三郎だ。
その衰えないポテンシャルは もはや 「サッカー界のサブちゃん」 と言っていい
いや違う! むしろ 「北島三郎は 歌謡界の砂川誠」 と呼ぶべきではなかろうか!
・・・ いやまぁ それぐらい砂川は モンスターだってことである。
もしかすると我々は今 奇跡を見ているのかもしれない。
大袈裟じゃなく 最近 本気でそう思っている。
例えば 限界だと感じたとしても 人からの影響や内面の変化で 衰えを跳ね返す
例えば 27歳がピークとされるサッカー界で それを10年も越えて なお進化する
そんな奇跡としか言いようがないものを 砂川は見せてくれているのである。
砂川進化論。
オールマイティーが主流のこの時代で 今や数少ない職人肌の選手である。
常に自分の仕事を全うしようと懸命で その後姿に 多くの選手が信頼を寄せる。
老練(ろうれん)さもあるが 本質的にそのプレースタイルはずっと若々しく
常に磨き続けている。 それが砂川の らしさであり 最大の武器でもあるのだ。
だが 砂川は衰えを知らないのではない。 いくつもの困難に打ち勝ち 進化した。
その鍵は “中山雅史” と “退団の決意” にあったと思う。
ゴンちゃんの存在はある意味 砂川からベテランという役割を奪ったのだが
そんな中山から 砂川は サッカーに真っ直ぐ打ち込む “若さ” を吸収した。
そして退団の決意では 一度 気持ちをリセットし “新たなる出発点” とした。
2つとも砂川にとって 崖っ淵と言えるターニングポイントだったが
共にプラスに転化させ 更に進化したのだから 凄いとしか言いようがない。
そして。 もうすぐ小野伸二がやって来る。
それでまた 砂川は進化するのだと思う。 ある種の危機感やライバル心で。
また小野も砂川から影響を受けるだろう。 砂川がゴンちゃんから影響されように。
そんな2人の化学反応と 砂川の進化する生き様を これからも見続けたい。
少なくとも 次のJ1までは。
その時は キレキレのスナイフターンをお見舞いしてやろう。
そして 日本中のサッカーファンを驚かしてやろう。 な 砂川。