盆休みに帰省すると カミさんの実家で 「kazuaお誕生会」なるものが催される。
8月末の私の誕生日を 姪っ子が祝ってくれるのが恒例行事となっているのだ
ハウスプリンにクリームをデコレーションしたバースディケーキと
絵や粘土で作ったプレゼント。ハッピーバースディ♪でろうそくの火を吹き消す。
姪っ子の「手作り誕生会」は いつも嬉し涙が落ちそうになる。
そんな感謝もあって 姪っ子の誕生プレゼントには自然と力が入る
「どんなものが欲しいのか?」 さぐりながらあらゆるものを探し出すのだ。
ただ 相手は小学生の女の子 移り変りやすい好みの中で
「これは嬉しい!」と思ってもらえるのを選び出すのは至難の業である
これまでのプレゼントも 「外れではないが 当りとも言えない」感じがある
それは姪っ子に限ったことではないが 「贈り物」とは実に難しいものである。
先日 姪っ子の父である義弟の誕生日があった。
カミさんと「何か探しに行こう」となり 必殺の
ジャスコ頼みが炸裂した
贈り物を探す時はいつもジャスコなのだ。行けば何とかなると思っている。
決して大丸ではない あそこは敷居が高く我々を拒み 店に飲まれるのだ
その点 ジャスコはウェルカムだ。あらゆる売り場をテンパらず見ることができる
「弟のプレゼント探し」を題材に ジャスコ探検隊・kazuaとU子は捜索を開始した
2手に別れ あらゆるコーナーを見て回る。「これはイイか?」「これならアリか?」
一品一品 手に取っては吟味し アリかナシかを判別していく
広い店内を所狭しと探し回りつつ 時々合流しては会議を開く
k 「何かイイのあったか?」 U 「う~ん…」
こういうものは考えれば考えるほど分からなくなるものだ
漠然としたテーマで探し出せるほど 「喜ばれる贈り物」 は甘くないのだ。
k 「じゃさ 何かネタ的になるものがイイんじゃないか?」
そう言った時は何か目ぼしい物があったわけじゃなく ただ漠然としたもので
例えるなら 自分で買うのは何だけど…と思うようなものを贈ってみたらどうか
と言うのが狙いだった。漠然としながらも テーマだけは決まったのである。
すぐさま本格的な捜索を再開する。また2手に分かれた。
”買うつもりはない” が それでいて “欲しくないわけじゃない” もの。
このテーマは実に興味深かった。
普段 何気なく流しているが こういったものは数多く存在する
例えば ハンズやロフトに行くと 「へー」と思う商品が結構ある
だが どうも「買う」とまではならない そういった「流される側」の商品を探すのだ
これはちょっと面白い。kazua探検員はすっかり宝探しのつもりになっていた。
そんな捜索活動も小1時間が経った頃だろうか
良い物を見つけた。シェイプアップ用品のコーナーにちょっと不自然な物があった
サッカーボールに紐が付いて 腰の辺りで固定されるやつだ
夜中とかテレビショッピングで見たことがある。
外人の子供が腰にベルトを付け サッカーボールを蹴っている
ボールは蹴られギューンと飛ぶが 紐がいっぱいになると足下へ戻ってくる
実に
うそ臭い素敵な商品である。いや子供の遊び道具としてなら良いだろう
がしかし これでサッカー技術が上達するわけがない。
しかもだ それを大の大人が公園でやってたらどうだろう
おそらく周りの人 愛犬の散歩中の人など 見て見ないふりだろう
それぐらい痛々しい姿なのだ。それを想像した時 コレにしようと思った。
kazuaの思考は いつの間にか ハンズやロフト的なものではなく
「これ貰ったら 困るんじゃないか」的な方へシフトして行ったのである。
想像が妄想を呼び さらに暴走していく kazuaの悪い癖が出始めた。
早速カミさんを探し 探し出したことを報告しようと思った。
20m先に 困り果てた顔のU子探検員を発見した
k 「何かイイのあったか?」 一応 そう聞くも期待はしてなかった
だが U子からは 意外とも言えるアイデアが発表された
U 「 …う~ん ここじゃ見つからないんだけど
そば打ちセットが
イイんじゃないかな って思うんだよね」
聞いた瞬間 そ それだ!と思った。
「興味」は引くが 「買う」には至らない物。 それでいて「貰ってちょっと困る」物。
まさにテーマを100%満たしてる贈り物だ。U子は完璧すぎるブツを探し当てた。
と同時に kazuaの探し出したサッカーボール的なものは心の中に封印した。
「そば打ちセット」 この見事なまでの提案は 発表と同時に決定となった。
となれば 膳は急げである。ジャスコのそれらしいコーナーに行き商品を探した
がしかし ザルやら容器などはあるが 肝心のセットはない。
店員に聞くも 「ここでは売ってない」との答えが返ってきた
ならば他の店で探すしかない。幸いホーマックに売っていた事を覚えていたため
早速ホーマックへと探検隊は移動する事になった。
ただ その前に 「そば打ちセット」を買う事を前提に そば粉を買った
セットだけでは直ぐにソバは打てない そう思ったからである。
ラジコン買ったが電池が付いてない それじゃダメなのだ
そば打ちセットとそば粉を一緒に贈ってこそ 正しいプレゼントなのだ
決して 貰ったはいいが使わない ことをさせないための手段ではない
「今すぐ打て」 と言うメッセージなど含まれていないのだ。
ジャスコでそば粉を買い 一路 ホーマックへと向かった。
そこのホーマックは凄い。「そば打ちグッズコーナー」があるのだ。
しかし最近の「おっさんの趣味」も 随分と本格的になったものだ
そば打ちコーナーが出来るほど需要者がある ということなのだろう
コーナー横には「そば打ち」と書かれたノボリがあり 商品が陳列されている
単品のグッズは充実し ほとんどプロ用と化している。もう趣味の域ではない。
だが今回 買うのはもっとトーシロ用のパンピー的なセットのやつである
プロ用に圧倒されながらも 目的の品は棚の一番上に君臨していた。
そば打ちセット トーシロ用。
これだ。これさえあれば すぐさま自宅で手打ちそばが作れる。
セットには 麺台・麺棒・こま板・こね鉢・麺切包丁と
「そば打ちビデオ」がセットされている。完璧すぎるセットだ。
すぐさま店員を呼び 「これをひとつ」と言うと 裏の倉庫から持ってきたのは
60cm四方はあろう どデカい箱。持って来るだけで疲労感が漂っていた。
さらに レジを済ませ サービスカウンターへ持って行く そして言う。
「これ ラッピングして」 と。
サービスカウンターの女性は 奥へ行き 巨大な箱と格闘していた。
おそらく包みながら思っていただろう 「こんなデカいの贈り物にするんじゃねー!」と
20分程して奥から出てきた女性の額には 薄っすらと汗が滲んでいた。
やはりこの贈り物 相当の手強さがある。人の迷惑感があればあるほど
今回のテーマに沿っているのだ。自信は益々高まった。
kazuaのナイスなテーマと カミさんのビューティフルアイデア
2人のセンスと知能が導き出した 贈り物の最高傑作品 そば打ちセット。
しかも ご丁寧に「そば粉付き」である。絶対使わざるを得ない。
もうこうなったらいち早く渡したい。そして何と言っても 渡された時の
ちょっと苦笑い が見たい。
そう切望した。
そして3日後 その日が訪れた。
渡す場所は実家。私達も弟一家も帰省したタイミングで渡す作戦に出た。
晩飯を食いに出るちょっと前 隠しておいたプレゼントを出してくる
弟は 巨大な包みを前に 「何すか これ~?」と奇声を上げる
ラッピングを丁寧に剥がすと 箱に書かれてある 「そば打ちセット」の文字が出る
「そば打ちだー!!」 奇声は一段と大きくなる。
私は内心ニヤリとした。ここまでは予想通りのリアクションである。
後は 「ちょっと微妙な苦笑い」だ。さぁカモーン the苦笑い!
それで完璧だ。完璧なストーリーのはずだった。
がしかし 違った。弟の顔に 苦笑い的なものは まったくない。
むしろ 目が輝いていた。
おいおい違うだろ。
ここで必要なのは もっと 「どうするんだよ これ~」的な表情じゃないのか?
がしかし 弟からはそんな空気は出ていない。
セットの品を一つ一つ取り出しては 目の輝きが増している
もう既に そば打ちセットに心を奪われているようだった。
当てたのか?微妙な所を狙いにいって 当ててしまったのか?
実に複雑な心境のまま 晩飯を食いに出た。
晩飯がいつもより早く終わったのは 偶然ではないかもしれない。
食い終わって帰ると 弟は早速 そば打ちセットを出した。
「まさか もう こねるのか?」 そう聞くと 「そりゃ まずはやってみないとね」と言う
今 晩飯を食って来たばかりなのに そばを打つ気だ。
しかもビデオも見ずに何となくで こね出した。完全に暴走体制に入った。
こうなったら誰にも止められない。姪っ子でさえ近付かなくなった。
「水の量が…」 「まだ 硬いな…」 「もっと伸ばさなきゃダメか…」
誰へともなく話すのだが 誰も答えは出せない問いである。
彼は己と戦い 孤独と戦い 未知の世界へと挑んでいた
麺切りに入った頃 私はメンつゆ作りを開始した。
彼の戦いに対し敬意を表したのである。
そば打ちは 男のロマンである。
ただの粉が こねられる事により 深みを増し
薄く引き伸ばされる事に 自身の境遇を重ね
集中力を高めるだけ高め 細く切る。
力と繊細な技 双方が加味されてこそ 一本の芸術が出来上がるのだ。
無心の中にある己と向き合い そこに広がる宇宙と交わる
そう出来るのが そば打ちであり だからこそロマンなのだ。
今回 世のおっさん方が そば打ちハマるのがよく分かった
一心不乱に成ることができ ロマンを感じるのだ
義弟の真剣な顔と 出来上がった時の満足気な表情が全てである。
「初めての そば打ち」は 午後9時から開始し 11時に出来上がった
見た目には 多少 残念な感がある。
だが 形ではない。大切なのはロマンなのだ。その事を忘れてはならない。
そして今回 贈り物のテーマである 「貰ってちょっと苦笑い」は 外した
微妙な所を狙いに行って 当てられたのだ。
だが それも嬉しい誤算ではなかろうか。
贈り物は喜んでもらってこそ本望なのだ。それでいいのだ。
だいたい 料理は嫌いじゃない男で 凝り性なら まず外す事はない
義弟はまさに そういう男である。そこから読みが浅かったのだ。
翌朝 弟は起きてすぐに こね出した。
さらに 私らが帰った翌日も 打ったらしい。
凝り性にもほどがある。
結局 苦笑いしたのは 私らの方だった。
やはり 贈り物は奥が深い。
喜ばれるか否か。実用されるかどうか。
あやゆることに悩み 迷い 巡り巡って辿り着く先は 自分の好みである。
それが上手く合えば良いだけのことだ。押し付け的で良いのだ。
ただ 今回 残念なのは目的を完遂できなかったこと
今度こそ 「苦笑い」的な何かを贈ろうと決意した。
そう 来年こそは あの
ビロ~ンとなって ギュ~ンと返って来る サッカーボールを贈ろう。
その時こそは 苦笑いを見せてくれ。