その人は
少し真顔になって こう言った
「 いや 応援してるのは 札幌ですよ」 と。
08年 5月10日 NACK5スタジアム大宮 J1・大宮vs札幌 ビジター席。
そこにつめ掛けた人の多くは 「アウェイサポ」 と言われる人たちである。
応援するチームと 今 住む場所が遠く離れ それでも応援し続ける人たち
そんなアウェイサポーターの 応援する理由は様々あるのだろうが
そのほとんどは 「北海道出身」 だからだろう。遠く離れてるからこそ
より強く応援しているように思え だからだろうか アウェイサポーターには
「故郷を想う気持ち」 が感じられる。
その日 NACK5スタジアム大宮に行った “すが” という人も北海道出身だった。
サッカーが好きで 故郷への想いがあって コンサドーレを応援し続けている人。
ただ他のアウェイサポーターと違っていたのは 「大宮に住んでいた」 ことだった。
すがさんにとって 札幌も 大宮も 特別な場所だった。
故郷のチームと 今住むチームの対戦。そのステージは J1。
そこに 特別な想いがあった。何年もその対戦を想い続け やっと実現した試合。
その事が分るだけに 遠く札幌で試合を見る自分にも 何かしんみり感動した。
そして試合が始まる。
2年半前。05年10月 仙台スタジアムへ行った時のこと。
私は札幌から すがさんは埼玉から ちょうど中間地点の仙台で 一緒に応援した。
試合後にメシを食い そのまま 「深夜バスで帰る」 と言う すがさんと 仙台駅下の
バス停近くで いろんな話をした。家族の事 友人の事 コンサドーレの事
様々な話しの中で1つ驚きがあった。「大宮の年間パスを持ってる」 と言うのだ。
勝手な思い込みだが 札幌を応援するなら 他のチームまで応援する事などない
と思っていた。だが すがさんの所は奥さんも含め 「大宮も見ている」 と言う。
ただ その事を特に嫌な思いもなく “そこも地元” である以上 不思議じゃない話し
むしろ 「サッカーの試合が多く見れて羨ましい」 とさえ思っていた。
もうすぐ新宿行のバスが来る頃 「今度は札幌で会いましょう」 と 別れの挨拶をし
何気なく ほんの冗談のように 私が言った言葉。 それには 今も後悔がある。
「とか言って 本当は大宮を応援してるんでしょ」
そう私が言うと すがさんの表情が少し変わった。
そして ちょっと真顔になって こう答えた
「いや 応援してるのは 札幌ですよ」
この時の すがさんの表情や言葉が 今も突き刺さっている。
自分の無神経な言葉にも嫌な思いがあって 本当に申し訳ない気持ちになる。
応援するチームが遠くにあって 「し続ける困難」 は自分に分るはずもなく
まして想いの根底に “故郷” がある人には その想いまで踏みにじるようなもの。
自分にとってコンサドーレは “あって当たり前” のものに感じていたが
アウェイの人達には もっと違う質の 深い感情がある事を その時 知った。
それと同時に すがさんの中にある 札幌への応援と 大宮への応援にも
違いがある事を知った。 例えるなら 「故郷と今」 のような。
若い人なら 「母と恋人」 かもしれない。愛情には変わりないが 質が違うのだ。
そんな反省と発見をしながら 仙台駅で すがさんを見送った。
あの頃は 「J1での 札幌vs大宮」 が いつ実現するか想像もつかない時だった。
大宮vs札幌 前半18分
札幌のCKに宮澤と相手DFが飛び込む
大宮・小林(慶)に当ったボールが GKの横をすり抜ける
札幌先制
もう一つ 忘れられない一言がある。去年の夏 室蘭での湘南戦。
すがさんは盆休みの帰省に合せて入江に来ていた。その時も試合後に飯を食い
友人のお薦めの “室蘭やきとりの抜群に美味い店” で 賑やかにやっていた。
その試合 疲れが見える敗戦で 今後が心配になるも 順位は余裕のある首位
様々な話題の中でも 中心になるのは やはり 「昇格」 についてだった。
「大丈夫だよね?」 ちょっと不安気に友人が言う。私は 「いや分らんよ」 と煽る。
だが すがさんはきっぱり 「大丈夫ですよ」 と言った。
その言葉に何となく安心しながら もう一つ 気になってる事を聞いてみた
私 「ところで 大宮はどうなの?」 と。
すがさんが心待ちにしてるはずの 札幌対大宮が 果たして実現するのか?
当時 J1の下位に沈んでいた大宮に そんな疑問を持っていたのだ。
せっかくコンサドーレが昇格したとしても 大宮が落ちては実現しない対戦である
そこの所を尋ねると すがさんの表情が少し曇った
すが 「大宮は・・・ダメかもしれませんね」
そう言った。残留は厳しい と。その時の落胆する表情を 今も覚えている。
その言葉と表情で分かる想いの強さ。片方だけが良くても 叶わない願いなのだ
それだけに 大宮とコンサドーレ どちらにも頑張ってもらいたかった。
そして この人の “待ちわびているもの” を どうしても 実現してほしかった。
ようやく手が届きそうになるも また遠ざかる夢。
何か すんなりとは行かない所に 運命のようなものを感じた。
大宮vs札幌
札幌は前半をハードワークでペースを掴んだまま終える。
だが後半 大宮が巻き返す。幾度も襲うピンチ。そして後半24分
吉原に代わった森田が すぐにゴールを決める。1-1の同点。
更に攻勢を続ける大宮。「敗戦」 と言う言葉が脳裏をかすめた。
すがさんとの付き合いは 03年からだから もう5年が過ぎた。
最初は掲示板で文字だけの交流から始まって 今では年に2度か3度 会う。
向うが札幌に来たり 僕らが向うに行ったり 会う回数こそ少ないものの
いつも楽しく お互い中年のおっさんだから 馴れ合うようなものはないが
私は尊敬してる。この人のサッカーに対する熱さや サポーターとしての想いに。
今でも会えば サッカーの質問ばかりして その度 答えに なるほど と思うのだが
たぶん すがさんは時々めんどくさくなってると思う それでも聞くのだ。しつこく。
また その答えに納得できるのは 感性が似ているからだと思う
感性が自分と近く それでいて自分より見解が広ければ なるほどと思うのだ。
そうした すがさんの人柄や知識が 自分を感化させる。
ひょうひょうとして 楽しく。時には厳しく。そして根底にある深い愛情。
そんなスタンスが 自分にとって 大きな刺激になってるし 目標でもあるのだ。
ただ ひとつどうしたって真似の出来ないものがある。それが。
「アウェイ・サポーター」 という立ち位置だ。
札幌に住み コンサドーレが身近にある自分には 絶対にその想いは持てない。
コンサドーレは地元のサッカーチームであって 応援する事に変わりはないが
アウェイサポーターの持つ “故郷への想い” まで持つことはないのだ。
そこが自分と すがさんの持つものとの 決定的な違いである事を感じていた。
ただ応援するだけじゃなく もう一つある特別な想い それが故郷だった。
そして すがさんにある もう一つの特別な場所 それが今住む場所 大宮。
2つの特別な場所が 今ひとつに重なった。その対戦がようやく実現したのだ。
何年も想い続けた夢が 現実となって 今 目の前にあった。
大宮vs札幌
同点にされ なおも攻め続ける大宮。
だが ワンチャンスを札幌が決める。
後半40分 札幌のCK ニアサイドでダヴィがすらし 柴田が返す
もう一度 ダヴィが当てる。
すんなりとは行かなかった対戦 すんなりとは終わらない対戦
それを制したのは 札幌だった。
それも札幌サポーターの目の前で。
片方は故郷のチーム 片方は今住むチーム その対戦に特別な想いがあった。
だが複雑な気持ちではなかっただろう。応援するのは 「コンサドーレ」 だから。
すがさんの想いを代弁する事はできないが 感じていた事を伝えるなら
札幌と大宮 2つのチームの対戦を楽しみにし
その試合のスタジアムへ行き
その上でコンサドーレを応援する
それが すがさんの本当の夢だったのではないだろうか。
どちらも大事だが その上で自分を確認する そんな想いがあったように思う。
札幌に居ると 対戦相手に対して 特別な思い入れを持つことはないだろう。
○○ダービーのようなものもなく 「ここにだけは負けたくない」 という特別な感情も
そうないように感じる。地域として離れている分 そういった 「いわく」 もないのだ。
ただ これからコンサドーレが作り上げて行く歴史の中で 思い入れを持つ対戦が
出来るのだろうし そうした思いがある事によって 対戦に深みを与えるのだろう。
「J1での コンサドーレ札幌 対 大宮アルディージャ」
すがさんの その夢は現実となり 「コンサドーレの勝利」 という結果まで叶った。
きっと その勝利を誰よりも喜んでいたと思う。
ひょうひょうとしながらも 誰よりも喜んでいたと思う。
試合後 その顔が浮かび メールを送った。「感無量でしょう」 と。
返事はすぐに返って来た
「とにかく うれしいです」
その答えが 全てに思えた。
待ちわびた対戦 と 叶った願い。
そして 故郷への想い。
様々な想いが交差した 対戦だったに違いない。
すがさんの特別な想いを込めた対戦は 札幌の勝利に終えた。
だが まだまだ この対戦は続く。
想いを込めた戦い 「想戦」 は これからも 続いて行く。