征したのは 「攻める守り」
■ 高校サッカー選手権大会・決勝 広島皆実 3-2 鹿児島城西
素晴らしい試合でした。皆実のポゼッション 鹿児島城西 2トップの得点力 と
両者ストロングポイントを出し合う決勝となりました。4万を越える大観衆の中
萎縮せず 自分達の力を発揮した両チームは 「素晴らしい!」 の一言に尽きます。
立ち上りから広島皆実のペースで 守備組織がしっかりしているからボールを
奪えますし セカンドボールも拾える。また この守備力から攻撃にも繋げられるのが
広島皆実の強みだったんじゃないでしょうか。序盤戦は皆実が幾度もチャンスを
作ってましたから。ただ危険なのは 鹿児島城西・大迫君。ボールを受ければ
一瞬のスピードとテクニックでビッグチャンスを作る という能力を持っています。
先制のシーンも 大きなチャンスではなく エリア外でボールを受け 相手DFに囲まれ
ながらも ゴールする というもの。まさに 「得点感覚は並じゃない」 と思わせる
大会新記録となる10得点目をたたき出しました。凄いですよ この記録は。
で 逆に広島皆実としては この失点で難しい試合になったんじゃないでしょうかね。
焦って放り込めば 自分たちのペースにならないでしょうし かと言って ゆっくり繋ぐ
だけじゃ勝機はない。ポゼッションを高くしつつ どうゴールを奪うか 興味を持って
見てましたよ。同点シーンは僅か3分後 左サイドからのクロスを 中央へ落として
ダイレクトで蹴り込む という これまた素晴らしい形のゴールでした。
この両チームの1点目は それぞれのスタイルが出ているように思いましたね。
鹿児島城西は選手の個人技 広島皆実はサイドを崩した組織力 両方の特性が
出たゴールで 全く違う質のものが がっぷりと絡み合う様が映し出されてました。
その後も前半の広島皆実は ポゼッションも高く 追加点も挙げたのですが
この一見して皆実のペースに見えるペースは 逆に 危険な感じがしましたね。
と言うのも このまま打ち合いになれば 分があるのは 鹿児島城西ですから。
広島皆実とすれば 「試合をオープンにしない」 というテーマがあったと思います。
攻撃意識が高まるあまり 気づけば相手の土俵で戦っていた というのが皆実の
一番 危惧する所で 逆転と同時に 「試合をどうクローズさせるか」 って言うのが
難しかったと思いますね。特に監督さんは。おそらくハーフタイムには
選手の攻め気を宥(なだ)める指示を出したかと思います。
また 選手たちも冷静で 後半 同点にされるも 自分たちのサッカーは崩さず
決勝点となる金島のゴールも サイドからの崩しによるものでした。
全国大会の決勝に来て 今まで経験した事のない4万の大観衆を前にして
「自分たちのサッカーを貫いた」 という事が凄いなと。
その萎縮しない精神力や いなしの技術には 凄いという言葉しかなかったですよ。
一方の鹿児島城西も 後半は しっかりと繋ぐ意識を持って 前半とは違う
「自分たちらしさ」 を取り戻した様でした。ただ 守備意識の差は最後まで響いて
強点と弱点を併せ持つチームなだけに そこは致し方のないものかと思いましたね。
ただ 大会新記録を出した大迫君と 同じく6戦連続得点の野村君 という
超高校級の2人を輩出した と言うのは 本当に誇れるものだと思いますよ
ストライカーを育てるが難しい今にあって よくぞここまで育てたな と思います。
またチーム全得点数が29と これまた とんでもない数字を叩き出して
サッカーにおけるゴールの面白さを 存分に魅せてくれたチーム だと思います。
また放送内で紹介されてたんですが 「県内の中学と提携して 一環した育成」 を
行っている というものがありました。この育成法が今 あらゆる地域でも活発に
行われていて 自分の知っている地域でも 数年前からやっていますし 一昨年は
見事 道内ベスト4 にまで勝ち上がって来ました。ユースチームがプロへの主流に
なった今 こうした試みで 小さなマチでも しっかりとした育成が成されていて
この決勝進出は そうした事に関わる人達へ 大きな励みになったと思います。
今回の鹿児島城西の選手達も こうして 「ずっと見ててくれる人」 がいたからこそ
個性を伸ばせたのだろう と思いますね。その積み重ねの成果を称えたいですよ。
と言う事で とうとう選手権が終わってしましました。
毎年毎年 この決勝翌日は脱力感に襲われますよ。
今年は 「静岡の高校サッカー」 なる本も買って 頭の中は選手権で一杯に
なってたんですが こうして終わってしまうと 元の空っぽな状態に戻りますね。
で 今年の選手権で残るのは 「繋ぐサッカー」 と 「個人技」 ですかね。
両方とも技術だけじゃなく 精神性も ひと昔前とは随分 変わったように思いますね。
それはおそらく 「ユースチームの影響」 が大きいと思うのですが
いわゆる 「プロっぽい」 サッカーに変わりつつあると思うんですよ 高校サッカーが。
で その辺りはもう一つ 高校の部活としても影響を及ぼしたのが 野洲高の優勝
だったように思いますね。あの3年前 センセーショナルだった野洲高の優勝が
少なからず高校生や その指導者たちに 意識の変化を及ぼしたのかな と。
そう考えると 今回優勝した 広島皆実の 「ポゼッションする守備」 というのが
今後 また影響を与えるんじゃないでしょうか。守るにしても ただ守るんじゃなくて
ゲームをコントロールする守り と言いましょうか そうした考えを持つようになる と。
またその意識は 「切替えの早さ」 に繋がるでしょうね。守備と攻撃が分断されない
攻守一体となった面白いサッカーが作られて行くのかな と思います。
ユースに圧され気味の高校選手権ですが この広島皆実の優勝で
また違う魅力の持ったチームが出てくるのだろうと思います。
また若い指導者が どんどんチャレンジして 既成概念を打ち破るサッカーを
作り上げて来るように思います。面白いですね そう考えると。
だからこそ まだまだ 見逃せませんよ 高校選手権は。
いや より一層 面白いですよ 選手権。
全国4082校の頂点へ立ったのは 守りのチーム広島皆実。
だが それは ただの守りじゃなかった。果敢にボールを奪い ゲームを支配する。
全員が その意識を高く持ち 最小得点差を守り切る というもの。
言わば 「攻める守り」 である。
魅せる守備に 魅せられた決勝戦となったのだ。
それは 全国の舞台で 攻め勝つ事だけが正統派ではない ことを知らしめていた。
今後 高校サッカーにおいて 新しい主流になるのかもしれない
そう予感させるチームだった。
おめでとう 広島皆実。