異端は 異端だからこそ 面白い。
開幕戦 西大伍の右サイドバックが面白かった。
従来のSBとは全く異なるタイプだが 西のSBは 自分の持ち味を出しつつ
新しい概念を打ち出していた。それは 「使われるSB」 ではなく
”使う サイドバック” という 新しい概念だった。
従来 SBに必要とされる資質は スピード・強さ・スタミナ だろう。
例えば守備なら ハードな当りと豊富な運動量が必要とされるポジションで
攻撃なら スピードで競り勝つ能力とセンタリングの精度が必要とされる。
だが 西の場合 これらの適正を持ち合わせているか?と言えば 足りてない
むしろ その特長は 技術 戦術眼 落ち着き といった正反対のものである。
特長で考えるのなら やはりボランチかトップ下が適正と言えるだろう。
だが開幕戦のスタメン 西は右サイドバックに入った。
そのプレースタイルは ”ボランチの能力を持ったSB” というタイプ。
それは監督が意図したものか または偶然がそうさせたのか 定かではないが
少なくとも サイドバックの概念に一石投じたように思う。
「レオナルドみたいだな」
スタメンのアナウンスがされた時 そんな言葉がでた。
レオナルドとは 鹿島にいたレオナルドの事。W杯アメリカ大会の時 彼は
ブラジル代表の左SBに入っていた。それまでも何度かSBをやる事は
あったようだが 本来はテクニックが特長の選手である 適正としては
左サイドかトップ下といった攻撃的なポジションが適していたはずである
ではなぜ彼がSBだったのか? 他の攻撃的ポジションには もっともっと
ビッグネームが顔を揃えていたのだ。監督の決断として レオナルドは
出したいが 他にポジションがなかった というのがその理由だろう。
西の右SB起用にも 同じ理由があるのではないかと思った。
”出場させたい が ボランチ・トップ下は埋まっている” というような。
だがもし理由がそれだけなら 藤田がいる。適性では藤田が上だろう。
普通に考えて 藤田を差し置いてまで 西のSB起用には少し疑問があった
なら 西の起用には 適正を越える 何か強い意味があるのだろう と思った。
”使われるサイドバック" から ”使うサイドバック” へ。
そうした新しい考え方があるのではないだろうか と。
西の特長を考えると ボランチの特性を持ったサイドバックという事になる
普通のSBは 中盤からのパスで懸命に走り クロスを放つという仕事
言わばそれは ”使われる仕事”。だが西の場合 SBでありながら
”人を使う” という事が出来る。
この発想は 新しいし 面白い と思った。言うなれば新概念である。
例えば 西が右SBの位置でボールを持ったとする。普通ならそこから中盤に
預けるか 縦に長く蹴るといったプレーになるだろう。だが西の場合 自分で
ボランチの位置まで持ち上がり そこからゲームを組み立てられる。
また相手に隙があるなら 縦パスやスルーパスも出せ 決定機を作り出せる。
こうした選択肢は 従来 縦一本だったSBのプレイゾーンから脱却する
大きな変化と呼べるのではないだろうか。そう言えるほど 西のSBは
サイドバックの新しい概念を持っていたのである。
また SBがボランチの機能を備えた場合 ボランチの選手の幅が広がる。
例えば西がボランチの位置まで持ち上がれば ボランチの上里がもっと前へ
行く事が出来る するとクライトンが前線に絡める となればキリノの孤立が
減り 前線でのチャンスが増える という効果が考えられるのだ。
実際 開幕戦では僅かだが その試みは見られた。
上手く行くか行かないかは別として こうしたチャレンジには 既成概念を
打ち破る新しい可能性があるのだ。ポジションの変化起る化学反応が。
西のSB。石崎監督の構想には それらの試みも含まれてるように思えた。
西が監督の期待に応えたかどうかは分からないが SBの新しい概念として
面白さはあった。スタメンが発表された時は 正直 いろんな心配をしたが
守備も無難にやっていたし 西なりのSBが出来ていたのは 確かだろう。
ただ 忘れてならないのは ”西のチャレンジ” がある事だ。
決して得意なポジションではないSBを 西は西の特長を出し プレーした。
それはチャレンジする勇気や既成概念に囚われない内面があってのもの
強心臓の持ち主である西だからこそ出来た 新概念のサイドバックだった。
いつも飄々としているが 実は簡単ではない事を この選手はやってるのだ
FW・左右サイド・ボランチ そしてSBと 全て特性の違うポジションを
自然に それでいて 自分の特長を失わず プレーする。
それは並大抵の事じゃないと思う
その裏側には きっと 凄まじい努力があるはずだ。
葛藤や苦しみは誰にも見せずに 内面で乗り越え プレーしているのだろう。
何でも器用にこなす選手に見えるが その陰では大きな努力があるはずだ。
事実 多くの方は分かってるだろうが 西の体は この2年で一回りも二回りも
大きくなっている。特に首の太さが目に付く。あの首は ”努力の証” だろう
それも そんじょそこらのものじゃなく おそらく本当に血の滲むような
努力から生れたあの首の太さ。そんな西の陰の努力を 我々は知っている。
以前 村野さんが こんな事を言っていた
「大伍にさ "お前 カンナバーロになれ” って言ったんだ」 と。
ポジションも プレースタイルも全く違うが カンナバーロはあの身長で
イタリアを代表する選手になった と。
「だからダイゴ お前も あの首になれ!」 そう言ったと。
それから西は黙々とトレーニングを続けたらしい。
そして村野さんは こう続けた
「そしたらさ あの首よ こーんな太くなりやがって」
そう言いながら とても嬉しそうな顔をした。
それは たぶん西本人にも見せてない顔だろう。
選手には どこまでも厳しかった村野氏が 唯一言った 誉めの言葉だった。
それからは西への見方が変わった。
西大伍はテクニックがある天才肌 という見方じゃなく。
”努力する天才” という認識に。
開幕戦での右SBも 自然にやれてるように見えて 実は ”勇気や努力”という
泥臭いものが根底にあると思った。西には あまり相応しくない言葉だが
ただ そういう表に出さない気持ちや汗が 西の 本当の良い所なのだろう。
飄々として 淡々として それでいて 努力を怠らない西大伍という選手は
いずれ ”札幌の象徴” になるだと思う。
北海道という まだ固い土地から ようやく芽吹いた一つの芽。
それが西大伍。それが 花になるか 野菜になるか もしかすると大樹に
誰よりも 大きな大きな そして確かな 大樹なるのかもしれない。
これからどう伸びていくか その先を ずっと見守り続けたい と思う。
どんなポジションも 果敢にチャレンジし 決して己を消すことはなく。
右SBという不慣れなポジションも ”西らしさ” を失わず出していた。
そこには ”使うサイドバック” という新しい概念をもたらせていた。
それは既成に囚われない西だからこそ 出来たプレーだったのだろう。
異端
この言葉を 誉め言葉として西を形容したい。
西の考え方も 西のSBも 決してスタンダードではなく 異端である。
だが その異端は 何かを変える力を持っているように思える。
それは既成や常識かもしれない。もしくは未来かもしれない。
ならば コンサドーレの未来を この選手に賭けてもいいのではないだろうか
既成も常識も打ち破るほどの その肝っ玉に 賭けてみるのも悪くないはずだ
どんな難題も 西は影の努力で きっと乗り越えてくれるに違いない。
そして その異端児が コンサドーレの未来を築くのかもしれない。
開幕戦 西の右サイドバックを見ながら そんな気がした。